組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
それに「京ちゃんがいない時だけ」と答えながら、芽生は恐る恐る。「ブンブンは百合香さんが嫌いなの?」と問い掛けずにはいられなかった。
だって、千崎が百合香と一緒だと告げた時の佐山の表情は何となくそう見えたから――。
「あー、いや、別に嫌いってわけじゃないんですけどね」
歯切れの悪い物言いをして、佐山がほぅっと吐息を落とす。
「あの、逆に神田さんはイヤじゃないんっすか? その……カシラに……自分以外の女がいるってなったら」
佐山のスッキリしない物言いに、芽生は昼間に街中で出会った玲奈のことを思い出した。
「もちろんイヤ。だけど……」
でも、百合香にしても玲奈にしても、京介たちから〝情婦〟と呼ばれる人たちにも、その人たちなりの想いがあるのだと芽生は思い知らされている。
特に百合香に関しては――千崎の正妻をしらないからかもしれないけれど――悪い印象を抱いていない。
それよりもむしろ、千崎を困らせないようそんな立ち位置に甘んじている百合香さんのことを強くてかっこいい女性だけれど、同時になんて悲しい生き方をする人だろう、とも思っている。
中途半端に言い止したまま止めた言葉の先を待っている風な佐山に、芽生は殿様を抱く腕にほんの少し力を込めて、「あのね、上手く言えないんだけど……」と前置きをして言葉を続けた。
「イロって言われる人たちもみんな……私と同じように色んな事を考えて……傷ついたり喜んだり……そういう当たり前の感情を持っているって知ってるから……だから……イヤって理由だけで私、そんな彼女たちを突っぱねられる自信がないの」
「ちょっ、神田さんっ」
芽生の言葉に佐山がなにか言い募ろうとしたと同時、リビングの扉が開いて京介と将継、静月が入ってきた。
芽生はこの話は終わり、とばかりに佐山から視線を外すと、京介たちの方へ駆け寄った。
***
「神田さん、すっかり元気になったみたいで良かったよ」
「……あのっ。でも! 病気は治りかけが一番大事っていいます。む、無理だけはしないで下さい……」
長谷川社長の言葉を補足するように静月が、彼にしては饒舌に言い募る。
そんな二人に、芽生は慌てて頭を下げた。
「あ、あのっ、年末の忙しい時期にダウンしてしまって……本当に申し訳ありませんでした!」
「……いや、それはホント、全然気にしないで? それにしても……せっかくの誕生日とクリスマスに寝込むとか。大変だったね」
長谷川社長からねぎらいの言葉を掛けられて、芽生はフルフルと首を横に振った。
と、そこで玄関前のドアチャイムの音が鳴って、千崎たちの到着を知らせてくる。
これには佐山がすぐさま動いてくれて、一瞬だけ会話が途切れた。
でも、すぐさま気を取り直したように芽生が続ける。
「いえっ。しんどかったのは二日くらいで……あとは割と元気に過ごさせて頂いたので。――それに」
そこで斜め前方に立つ京介をじっと見上げて、頬を赤く染めた芽生が小声で付け加えた。
「……むしろ、京ちゃんと一緒にいられる時間がたくさん頂けて、幸せだったくらいです」
京介は、葛西組に呼び出されて千崎とともに出掛けて行った日以外は当初の約束通り。基本的に芽生の傍へいてくれた。
それが嬉しくて堪らなかったとはにかんだ芽生に、「……私としてはあまり歓迎できる状態じゃなかったんですがね」と至極冷静な声が被さってきて、芽生はビクッと肩を跳ねさせる。
見れば、長谷川社長のすぐ背後に千崎雄二が立っていた。
「もぉ、雄ちゃんってば意地悪なんだから」
すぐさま百合香が助け舟を出してくれて、「お前だって百合香に何かあったら……例え仕事していても心ここにあらずな役立たずになるだろーが」と京介も加勢する。
結局多勢に無勢。千崎が苦虫をかみつぶしたような顔で押し黙る格好になってしまったのだが、芽生は千崎に対してちょっぴり申し訳ない気持ちになってしまった。
「ごめんなさい、千崎さん。私のせいでご迷惑を……」
謝ろうとした芽生を、百合香が「謝る必要なんてないのよ? 大事な女性が大変な時にそばに居られない男性の方がよっぽど問題ありなんだから」とにこやかに阻止されてしまう。
何だかそれは千崎に対する当てこすりみたいで、芽生はソワソワしてしまったのだけれど。
考えてみれば『ランジェリーショップYURIKA』が火災に遭って百合香が火傷を負った時、千崎は彼女の傍へついていたはずだ。
そこでふと佐山の言っていた〝自分以外の女〟という言葉を思い出した芽生は、(その間、千崎さんの奥様はどうなさっていらしたんだろう?)と至極当たり前のことに思い至って、胸の奥がキュッと縮こまるような気持ちに苛まれた。
今まで自分が目の前にいる百合香のことしか見えていなかったことを思い知らされて、会ったことのない千崎の正妻に思いをはせることが出来ていなかったのだと気付かされる。
佐山が、百合香に対して複雑な顔をしていたのはそういうことだったのだ。
だって、千崎が百合香と一緒だと告げた時の佐山の表情は何となくそう見えたから――。
「あー、いや、別に嫌いってわけじゃないんですけどね」
歯切れの悪い物言いをして、佐山がほぅっと吐息を落とす。
「あの、逆に神田さんはイヤじゃないんっすか? その……カシラに……自分以外の女がいるってなったら」
佐山のスッキリしない物言いに、芽生は昼間に街中で出会った玲奈のことを思い出した。
「もちろんイヤ。だけど……」
でも、百合香にしても玲奈にしても、京介たちから〝情婦〟と呼ばれる人たちにも、その人たちなりの想いがあるのだと芽生は思い知らされている。
特に百合香に関しては――千崎の正妻をしらないからかもしれないけれど――悪い印象を抱いていない。
それよりもむしろ、千崎を困らせないようそんな立ち位置に甘んじている百合香さんのことを強くてかっこいい女性だけれど、同時になんて悲しい生き方をする人だろう、とも思っている。
中途半端に言い止したまま止めた言葉の先を待っている風な佐山に、芽生は殿様を抱く腕にほんの少し力を込めて、「あのね、上手く言えないんだけど……」と前置きをして言葉を続けた。
「イロって言われる人たちもみんな……私と同じように色んな事を考えて……傷ついたり喜んだり……そういう当たり前の感情を持っているって知ってるから……だから……イヤって理由だけで私、そんな彼女たちを突っぱねられる自信がないの」
「ちょっ、神田さんっ」
芽生の言葉に佐山がなにか言い募ろうとしたと同時、リビングの扉が開いて京介と将継、静月が入ってきた。
芽生はこの話は終わり、とばかりに佐山から視線を外すと、京介たちの方へ駆け寄った。
***
「神田さん、すっかり元気になったみたいで良かったよ」
「……あのっ。でも! 病気は治りかけが一番大事っていいます。む、無理だけはしないで下さい……」
長谷川社長の言葉を補足するように静月が、彼にしては饒舌に言い募る。
そんな二人に、芽生は慌てて頭を下げた。
「あ、あのっ、年末の忙しい時期にダウンしてしまって……本当に申し訳ありませんでした!」
「……いや、それはホント、全然気にしないで? それにしても……せっかくの誕生日とクリスマスに寝込むとか。大変だったね」
長谷川社長からねぎらいの言葉を掛けられて、芽生はフルフルと首を横に振った。
と、そこで玄関前のドアチャイムの音が鳴って、千崎たちの到着を知らせてくる。
これには佐山がすぐさま動いてくれて、一瞬だけ会話が途切れた。
でも、すぐさま気を取り直したように芽生が続ける。
「いえっ。しんどかったのは二日くらいで……あとは割と元気に過ごさせて頂いたので。――それに」
そこで斜め前方に立つ京介をじっと見上げて、頬を赤く染めた芽生が小声で付け加えた。
「……むしろ、京ちゃんと一緒にいられる時間がたくさん頂けて、幸せだったくらいです」
京介は、葛西組に呼び出されて千崎とともに出掛けて行った日以外は当初の約束通り。基本的に芽生の傍へいてくれた。
それが嬉しくて堪らなかったとはにかんだ芽生に、「……私としてはあまり歓迎できる状態じゃなかったんですがね」と至極冷静な声が被さってきて、芽生はビクッと肩を跳ねさせる。
見れば、長谷川社長のすぐ背後に千崎雄二が立っていた。
「もぉ、雄ちゃんってば意地悪なんだから」
すぐさま百合香が助け舟を出してくれて、「お前だって百合香に何かあったら……例え仕事していても心ここにあらずな役立たずになるだろーが」と京介も加勢する。
結局多勢に無勢。千崎が苦虫をかみつぶしたような顔で押し黙る格好になってしまったのだが、芽生は千崎に対してちょっぴり申し訳ない気持ちになってしまった。
「ごめんなさい、千崎さん。私のせいでご迷惑を……」
謝ろうとした芽生を、百合香が「謝る必要なんてないのよ? 大事な女性が大変な時にそばに居られない男性の方がよっぽど問題ありなんだから」とにこやかに阻止されてしまう。
何だかそれは千崎に対する当てこすりみたいで、芽生はソワソワしてしまったのだけれど。
考えてみれば『ランジェリーショップYURIKA』が火災に遭って百合香が火傷を負った時、千崎は彼女の傍へついていたはずだ。
そこでふと佐山の言っていた〝自分以外の女〟という言葉を思い出した芽生は、(その間、千崎さんの奥様はどうなさっていらしたんだろう?)と至極当たり前のことに思い至って、胸の奥がキュッと縮こまるような気持ちに苛まれた。
今まで自分が目の前にいる百合香のことしか見えていなかったことを思い知らされて、会ったことのない千崎の正妻に思いをはせることが出来ていなかったのだと気付かされる。
佐山が、百合香に対して複雑な顔をしていたのはそういうことだったのだ。