組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
 自分も大概イヤなやつだな……と自認して一人吐息を落としつつ……。
(俺は……相良くんにどう答えて欲しかったんだろう?)
 ことあるごとにそんなことを悶々と考えてしまった将継は、なんだか釈然としない一日を過ごしてしまった。

 そうして迎えた下校時刻――。

 ふと見詰めた先。いつものように数メートル先を相良京介が一人ぼっちで歩いていた。
(ん? なんかいつもより、急いでない?)
 そう考えてから、彼が今日一日やたらと窓外ばかりを気にしていたことを思い出した将継だ。
(何か気になるものでもあるのかな?)
 隣で、帰る方向が一緒の友達がずっと何か話しているけれど、将継は相良のことが気になり過ぎて生返事をすることしか出来なかった。

「じゃあまた明日なー!」
 分かれ道で同級生が手を振って走り去って行くのを「うん、また」と手を振りながら、半ば無意識。将継の視線は数メートル先を行く相良を追っている。
 もともとそんなに雪が降るような地域ではない。十五センチばかり降り積もった雪は、水分多めの重たい雪だった。朝は町全体を覆っていた雪も、下校の頃には陽光にさらされほとんどが溶けてしまっていた。お陰で校庭がぐじゅぐじゅにぬかるんでいて、児童らは皆、足元が泥だらけになったのだ。
 こうしてアスファルトで舗装された町を歩いていても、日当たりの悪い場所には汚らしく溶けた雪がわだかまって、朝より数倍歩きにくい状態になっている。
 前を歩く相良の靴も、泥と路面を覆う水気でぐずぐずになっているのが、遠目でも分かった。
 将継自身は長靴を履いていたから問題ないけれど、あんなに足元を濡らしたままにしていたら凍瘡(しもやけ)とか出来るんじゃないだろうか?
 そんなことを心配してしまう程度には、相良のことが気になって仕方のない将継である。

 何とか前を行く相良に追いつこうと小走りになりかけたところで、相良が不意に家と家の間の路地へ入ってしまった。
(えっ?)
 しょっちゅうこんな感じで相良の下校を目にする将継は、彼の家がそっち方向ではないことを知っている。
 日頃寄り道なんてする相良を見たことのない将継は、妙にそれが気になって、自身も路地へと近付いた。
(あ……)

「今日は寒かっただろ。ちゃんと濡れないところに隠れてたか?」
 自分自身腹を空かせているだろうに、いつも通り。給食で余って持ち帰っていたパンを、目の前の野良猫へ分け与えている相良の姿が見えて、将継は思わず息を呑んだ。
 教室では人を寄せ付けない雰囲気をガンガンに醸し出しているくせに、紡がれる言葉とともに垣間見えた横顔がやたら穏やかで、将継は吸い寄せられるように相良の方へ近付いていた。
「……相良くん」
 痩せ細った猫の前へしゃがみ込んでいる同級生の背後に立った将継は、朝一で相良から拒絶されたのも忘れて、つい声を掛けてしまっていた。
 将継が話し掛けた途端、ビクッと肩を跳ねさせた相良が、次の瞬間には怪訝(けげん)そうにこちらを振り返る。
 さっきまではあんなに優しそうな顔をしていたくせに、――不機嫌さはにじみ出ているものの――ほぼ無表情。
 相良のその急激な顔つきの変化は、将継には彼が努めて感情を押し殺しているように見えた。そう気付いたら、日頃の素っ気ない態度も、実は相良なりの防衛本能なんじゃないかと思えてしまう。
(あー、これはまずいかも……)
 将継は、凄く嫌がられるだろうな……と分かっていながら、そんな相良の防御壁を突き崩してみたくなった。

「俺、同じクラスの長谷川だけど……分かる? 朝も君に話し掛けたんだけど……」
 あえて相良の横へしゃがみ込んで、ぴったり肩をくっ付けるように並んだら、やせ細った猫がおびえたように路地奥へ走り去って行ってしまった。
 その様に、将継が「ごめん」と素直に謝ったと同時、はぁっと吐息を落として立ち上がった相良に、不機嫌そうに見下ろされた。
 いつも教室では全く感情を表に出さない相良の、あからさまなムスッとした顔に思わず瞳を見開いて彼を見上げたら、腹立たし気に舌打ちされた。
「なに? アンタは俺のこと、クラスメイトの顔も覚えらんねぇバカだとでも思ってんの?」
「え……?」
 余りに辛辣(しんらつ)な相良の反応に、やたら新鮮味を覚えて間の抜けた声を出したら、「長谷川、だろ? 学級委員の……」と睨まれる。
「う、うん、そう。長谷川……。長谷川将継」
「別にそんなん知ってるし……今更名乗ってもらわなくてもいいんだけど?」
 こんなに饒舌(じょうぜつ)な相良を見るのは初めてで、いかにもお冠といった相良を前に、将継は不謹慎にも妙に気分が高揚してしまった。
「ねぇ相良くん。良かったらうちへ遊びに来ない?」
「は?」
「実はこの前さ、親戚のおじさんがカステラくれたんだよね。良かったら一緒に食べようよ」
 相良が、家に帰っても中へ入れてもらえず夜遅くまで外で(うずくま)っているのを、将継は知っている。
< 113 / 137 >

この作品をシェア

pagetop