組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「けど……」
「あー。うちさ、親、共働きで俺、鍵っ子なんだよね。一人で家にいんのって結構退屈じゃん? だから相良くんが来てくれたら嬉しいんだけど」
家には大人はいないと言外に含ませれば、相良が「迷惑じゃねぇなら」と、ボソリとつぶやいた。
その日を境に、学校が終われば二人で長谷川家に入り浸るようになって……結果、相良と自分の両親が何度か鉢合わせしたこともある。将継の母も父も、相良の様子を見て思うことはあっただろうに、深くは尋ねず、ただ将継の友達がひもじい思いをしなくて済むよう、我が子にするように菓子や夕飯を用意してくれて……。
相良は将継と一緒に風呂へ入って、将継の服に着替えて帰ることも多くなっていった。
相良が残した服は長谷川家で一緒に洗濯をして、次に彼が来た時に着て帰れるようにする。そのシステムに、最初のうちこそ恐縮していた相良だったけれど、将継の両親がとても気さくに接している内に、段々その状況を受け入れてくれるようになった。
学校でも少しずつ話す機会が増えて……二学期が終わる頃には、二人は唯一無二の親友になっていた。
自分とは正反対に思えていた相良だったけれど、話してみると妙に馬が合って、他の友人たちと一緒にいるときみたいに変な気を遣わなくてもいい。そこが将継には心地よかったのだ。
相良も、同じように感じてくれているのか、将継の前でだけはしょっちゅう軽口も叩くようになっていた。
そんな日々を何ヶ月も過ごした二人だったけれど、相良の家は将継の家のすぐ近所だったにも関わらず、ただの一度だって、相良の親が長谷川家を訪ねてくることはなくて……。
自分の両親が何度も相良家を訪問してくれたりもしたけれど、ただの一度も彼の母親に会うことは叶わなかったらしい。
それが、将継にはなんだかとても切なくて寂しかった。
***
「俺の名前、母親を捨てた父親から取ったんだってさ」
長谷川将継が、そんな告白をさもなんでもないことのように親友の相良京介から聞かされたのは、小学六年生になってすぐの頃のことだった。
「そう、なの?」
「うん。でさ、母親は俺にこの名前を付けたこと、すっげぇ後悔してるみたいなんだ」
相良の話によれば、彼の名前は母親の元恋人の名で、母親はその名を我が子につけることで、元恋人が戻ってきてくれるよう願掛けをしたらしい。
だが、そんな一方的な願いは叶うことなんてなくて……逆に息子の〝京介〟という名が呪いだと感じるようになったんだそうだ。
相良の母親は京介の父親に捨てられたあとも、男性をとっかえひっかえしては彼らに依存する形で生活してきたらしい。
そうなってくると、元恋人の名を冠した息子のことが段々邪魔になってくる。
「小さい頃はさ、俺のことを〝京介〟って呼ぶたび、母親がすっげぇ悲しそうな顔をしてたの、覚えてる」
幼い頃は京介の名を呼んでは泣いていた母親が、新しい彼氏が出来た途端、その名を憎しみを込めて呼ぶようになった。
ここ数年は「京介さえいなければ」と、「京介なんか産まなきゃよかった」が口癖になってきているらしい。
「けど……そんなの……」
「俺には関係ねぇよなー。俺が京介って付けてくれって頼んだわけじゃねぇし……ましてや産んで下さいってお願いしたわけでもない。あの女が勝手に俺を産めば男が帰ってくるんじゃないかって期待して堕ろさずにおいて……それだけならまだしも未練がましく自分を捨てた男の名前を付けて……。それで勝手に傷付いたり嫌気がさしたり……。バカなんじゃねぇの? って思ってる……」
吐き捨てられた言葉は投げやりだけど、どこか泣きそうにも見えて……将継は相良の言葉にまともに返答することが出来なかった。
「俺さぁ、今の学校、変な時期に転校してきたじゃん? あれもさ、母親の依存してる男が転勤になったとかで……そいつの新居に転がり込む形で付いてきたんだ」
男の転勤を機に引っ越しを決めたと言った母親に、相良は心底うんざりしたのだという。
「京介のこと、このまま置いていけたらいいのに」
息子にそんな呪詛を吐きながらも、そうすれば直ちに捕まってしまうと分かっていたんだろう。母親は男と引き離されてしまうことを回避するためだけに、息子を新天地へ連れてきた。
男は母親よりは少しばかりまともな人間で、母親に「学校だけは行かせとけ。そうしないと後々面倒なことになる」とアドバイスをしたらしい。学校への転校手続きだけはしてくれた。
そのお陰で、学校がある日だけは最低でも一日一食。まともな食事へありつけるようになってホッとしたと笑う相良に、将継は彼が給食を命綱みたいにしていたのを思い出して何とも言えない気持ちになる。
「五年の時の担任もさ、俺が何も言わなくても給食の残りとか持ち帰らせてくれてたじゃん? あれ、すっげぇ助かってたんだ」
今でこそ長谷川家で給食以外にもお腹いっぱい食べさせてもらえるようになった相良だけれど、そうなるまではずっと……それこそ前の学校でも彼は給食に生かされていた。
「あー。うちさ、親、共働きで俺、鍵っ子なんだよね。一人で家にいんのって結構退屈じゃん? だから相良くんが来てくれたら嬉しいんだけど」
家には大人はいないと言外に含ませれば、相良が「迷惑じゃねぇなら」と、ボソリとつぶやいた。
その日を境に、学校が終われば二人で長谷川家に入り浸るようになって……結果、相良と自分の両親が何度か鉢合わせしたこともある。将継の母も父も、相良の様子を見て思うことはあっただろうに、深くは尋ねず、ただ将継の友達がひもじい思いをしなくて済むよう、我が子にするように菓子や夕飯を用意してくれて……。
相良は将継と一緒に風呂へ入って、将継の服に着替えて帰ることも多くなっていった。
相良が残した服は長谷川家で一緒に洗濯をして、次に彼が来た時に着て帰れるようにする。そのシステムに、最初のうちこそ恐縮していた相良だったけれど、将継の両親がとても気さくに接している内に、段々その状況を受け入れてくれるようになった。
学校でも少しずつ話す機会が増えて……二学期が終わる頃には、二人は唯一無二の親友になっていた。
自分とは正反対に思えていた相良だったけれど、話してみると妙に馬が合って、他の友人たちと一緒にいるときみたいに変な気を遣わなくてもいい。そこが将継には心地よかったのだ。
相良も、同じように感じてくれているのか、将継の前でだけはしょっちゅう軽口も叩くようになっていた。
そんな日々を何ヶ月も過ごした二人だったけれど、相良の家は将継の家のすぐ近所だったにも関わらず、ただの一度だって、相良の親が長谷川家を訪ねてくることはなくて……。
自分の両親が何度も相良家を訪問してくれたりもしたけれど、ただの一度も彼の母親に会うことは叶わなかったらしい。
それが、将継にはなんだかとても切なくて寂しかった。
***
「俺の名前、母親を捨てた父親から取ったんだってさ」
長谷川将継が、そんな告白をさもなんでもないことのように親友の相良京介から聞かされたのは、小学六年生になってすぐの頃のことだった。
「そう、なの?」
「うん。でさ、母親は俺にこの名前を付けたこと、すっげぇ後悔してるみたいなんだ」
相良の話によれば、彼の名前は母親の元恋人の名で、母親はその名を我が子につけることで、元恋人が戻ってきてくれるよう願掛けをしたらしい。
だが、そんな一方的な願いは叶うことなんてなくて……逆に息子の〝京介〟という名が呪いだと感じるようになったんだそうだ。
相良の母親は京介の父親に捨てられたあとも、男性をとっかえひっかえしては彼らに依存する形で生活してきたらしい。
そうなってくると、元恋人の名を冠した息子のことが段々邪魔になってくる。
「小さい頃はさ、俺のことを〝京介〟って呼ぶたび、母親がすっげぇ悲しそうな顔をしてたの、覚えてる」
幼い頃は京介の名を呼んでは泣いていた母親が、新しい彼氏が出来た途端、その名を憎しみを込めて呼ぶようになった。
ここ数年は「京介さえいなければ」と、「京介なんか産まなきゃよかった」が口癖になってきているらしい。
「けど……そんなの……」
「俺には関係ねぇよなー。俺が京介って付けてくれって頼んだわけじゃねぇし……ましてや産んで下さいってお願いしたわけでもない。あの女が勝手に俺を産めば男が帰ってくるんじゃないかって期待して堕ろさずにおいて……それだけならまだしも未練がましく自分を捨てた男の名前を付けて……。それで勝手に傷付いたり嫌気がさしたり……。バカなんじゃねぇの? って思ってる……」
吐き捨てられた言葉は投げやりだけど、どこか泣きそうにも見えて……将継は相良の言葉にまともに返答することが出来なかった。
「俺さぁ、今の学校、変な時期に転校してきたじゃん? あれもさ、母親の依存してる男が転勤になったとかで……そいつの新居に転がり込む形で付いてきたんだ」
男の転勤を機に引っ越しを決めたと言った母親に、相良は心底うんざりしたのだという。
「京介のこと、このまま置いていけたらいいのに」
息子にそんな呪詛を吐きながらも、そうすれば直ちに捕まってしまうと分かっていたんだろう。母親は男と引き離されてしまうことを回避するためだけに、息子を新天地へ連れてきた。
男は母親よりは少しばかりまともな人間で、母親に「学校だけは行かせとけ。そうしないと後々面倒なことになる」とアドバイスをしたらしい。学校への転校手続きだけはしてくれた。
そのお陰で、学校がある日だけは最低でも一日一食。まともな食事へありつけるようになってホッとしたと笑う相良に、将継は彼が給食を命綱みたいにしていたのを思い出して何とも言えない気持ちになる。
「五年の時の担任もさ、俺が何も言わなくても給食の残りとか持ち帰らせてくれてたじゃん? あれ、すっげぇ助かってたんだ」
今でこそ長谷川家で給食以外にもお腹いっぱい食べさせてもらえるようになった相良だけれど、そうなるまではずっと……それこそ前の学校でも彼は給食に生かされていた。