組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
7.外出禁止令
盗み聞きなんて愚行を誤魔化すためにバカなことを言ってしまったせいで、同棲(同居?)初日から京介と同じ部屋で眠ることになってしまった芽生は、京介に半ば無理矢理押し込まれた布団の中、息を吸い込むたびに大好きな京介の残り香を感じてしまって、絶対に眠れない! と思っていた。
「……え?」
なのに、なんてことはない。いつの間にかちゃっかり眠り込んでしまっていたらしい。
まぁ、昨日一気に色んなことが起こったことを思えば、仕方ないのかも知れないが、ひとつだけ看過できない問題があった。
(キャーッ! 私のバカ! なんで京ちゃんの方へ寄っちゃってるの!)
京介は、確かに昨夜ベッドを半分に仕切った右半分と左半分で、片側を芽生、もう片側を自分の割り当てだと宣言して決して領域侵犯はしないから安心して寝ろと約束してくれた。
だが目覚めてみると、《《芽生のほうが》》思いっ切り京介の陣地を侵していた。
何なら京介側で目覚めたといっても過言ではない。
でも、そこにいるはずの京介の姿はどこにもなくて――。
(私がベッド占拠しちゃったから、ひょっとして京ちゃん眠れてないんじゃ……っ!?)
そのことに思い至った芽生はガバッと起き上がってキョロキョロと部屋の中を見回した。
「おぅ、子ヤギ、起きたか」
と、部屋の向こうのほう。昨夜京介が千崎と電話をしていた時にいた窓辺の辺りから声がして、芽生は慌てて京介のそばへ駆け寄った。
「ごめんなさい! 京ちゃん。私がベッド取っちゃったから……もしかして眠れなかった!?」
申し訳なさに眉根を寄せれば「バーカ。俺も今さっき起きたトコだから変な気ぃ回すな」と寝癖のついた髪の毛をぐしぐしされて、さらに乱されてしまう。
「俺がいなくなってからお前、俺の側に転がったんだよ」
「でも……」
眠っている間の記憶がないのだからそう言われてしまえば信じるしかないのかも知れない。だけど、何となくそうじゃない気がして。
(だって……なんだか手に……)
ソワソワと京介を見上げたら、「まぁ確かにお前がベッドん中でコロコロコロコロよく転がり回るから何度も起こされちまったが……寝られてねぇわけじゃねぇから心配すんな」とクスクス笑われてしまう。
幼な子じゃないのだから、いくら何でもそんなに動き回るはずはないと思いたい。現に今まで家ではシングルサイズの寝具で寝ていたけれど、そこからはみ出して目覚めたことなんて一度もないのだ。
京介の意地悪そうな笑顔でそれを見抜いた芽生が「京ちゃんの嘘つきっ」と彼の胸元をポスポス叩いたら、ギューッと鼻先を摘まれてしまった。
「痛い」
「――けど、まぁ、年頃の娘が男にしがみついて寝るのは感心しねぇなぁ?」
そのままデコピンをされて、京介からはぁーと大きく吐息を落とされた芽生は、記憶の片隅――何となく温かな抱き枕に取り縋って眠っていた感触が腕に残っている気がして、ブワッと頬を赤らめた。
さっき、京介の言葉を手放しに信じられなかったのも、身体が京介の温もりを覚えている気がしたからだ。
「あ、あの……京ちゃん。……それ、本当?」
「さぁ、どっちだろうな?」
ククッと笑う京介のせいで、結局どこまでが嘘でどこからが真実なのか、芽生には分からなかった。
***
「朝ご飯は私がっ」
何とか名誉挽回しようと意気込んでキッチンに立ってみた芽生だったのだけれど、冷蔵庫を開けてがっかりした。
「京ちゃん、この冷蔵庫の中、飲み物しか入ってない!」
結構大きな冷蔵庫なのに、京介に許可を取ってカパッと扉を開けてみたら、清々しいくらい食べられそうなものが入っていなかった。
ずらりと並んでいるのはビールばかり。
それから昨日夕飯の時、芽生が飲ませてもらったと思しき飲み掛けの麦茶のペットボトルが一本。
水はウォーターサーバーが台所と、寝室にあるからそれで間に合わせているんだろう。入っていなかった。
「いつもご飯とかどうしてるの?」
出鼻をくじかれた芽生が、あくびを噛み殺しながらコーヒーメーカーをセットし始めた京介へ恨みがましく問い掛ければ、「朝は食わねぇな」とか。ついでに昼や夜は基本外食で済ませるという。
「不健康だし不経済だよぅ!」
朝は一日の基本だから食べないのは良くないし、昼と夜の外食にしたって、京介のことだからきっと安くはない出費を重ねているに違いない。
そう思いながらブーブー言い始めた芽生を、「どうした? 今朝はやけに機嫌悪ぃーな? あー、ひょっとして腹減ってるからか?」と犬でも可愛がるみたいに髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回してから、「ヨシヨシ。すぐに手配してやるからな」と言って、京介が電話を掛け始める。
「石矢か? 悪ぃーけど迎えついでに牛乳と……」
そこまで言って、「何か食いたいもんのリクエストあるか?」と芽生の顔を覗き込んできた。
「卵とハムと食パンとお米! あとお肉とか野菜とか……そういうのも沢山買いたい!」
「いや、子ヤギ。そりゃ材料だろ。俺が言ってんのはすぐ食えるモンの話だぞ?」
「卵もハムも食パンも、焼くだけですぐ食べられるもん! キュウリとかミニトマトとかレタスとか添えたら、それなりの朝食になるよ!? カップスープも買ってきたら完璧かも知んない!」
芽生はそこに関しては譲る気なんてないのだと鼻息を荒くした。
「もちろん京ちゃんも食べるのよ!? 石矢さんも朝ご飯まだなら一緒に食べたらいいし!」
「は? だから俺は朝は……」
「朝食抜きは許しません!」
芽生の勢いに押されて、京介は思わず「お……おぅ」と返事をしてしまっていた。
そんなわけで、石矢はコンビニで卵やパンやハム、生野菜などを買って、京介のマンション下まで二人を迎えに来ることになったのだった。
***
結局石矢も交えて三人で食卓を囲んだ後、京介から「今日はお前に必要なモン、買いに行くぞ」と言われた芽生は、石矢の運転でデパートまで連れてこられた。
「京ちゃん今日お仕事は?」
自分は火事で焼け出された直後と言うこともあって、しばらくは仕事を休むことにしているけれど、京介は違う。
昨夜千崎に渋い顔をされたのを思い出しながら尋ねたら、買い物後にちゃんと行くという答えが返ってきた。京介の仕事はある意味自営業みたいなものなので、時間的な縛りはないのだと説明されれば、裏稼業事情に疎い芽生は納得するしかない。
「……え?」
なのに、なんてことはない。いつの間にかちゃっかり眠り込んでしまっていたらしい。
まぁ、昨日一気に色んなことが起こったことを思えば、仕方ないのかも知れないが、ひとつだけ看過できない問題があった。
(キャーッ! 私のバカ! なんで京ちゃんの方へ寄っちゃってるの!)
京介は、確かに昨夜ベッドを半分に仕切った右半分と左半分で、片側を芽生、もう片側を自分の割り当てだと宣言して決して領域侵犯はしないから安心して寝ろと約束してくれた。
だが目覚めてみると、《《芽生のほうが》》思いっ切り京介の陣地を侵していた。
何なら京介側で目覚めたといっても過言ではない。
でも、そこにいるはずの京介の姿はどこにもなくて――。
(私がベッド占拠しちゃったから、ひょっとして京ちゃん眠れてないんじゃ……っ!?)
そのことに思い至った芽生はガバッと起き上がってキョロキョロと部屋の中を見回した。
「おぅ、子ヤギ、起きたか」
と、部屋の向こうのほう。昨夜京介が千崎と電話をしていた時にいた窓辺の辺りから声がして、芽生は慌てて京介のそばへ駆け寄った。
「ごめんなさい! 京ちゃん。私がベッド取っちゃったから……もしかして眠れなかった!?」
申し訳なさに眉根を寄せれば「バーカ。俺も今さっき起きたトコだから変な気ぃ回すな」と寝癖のついた髪の毛をぐしぐしされて、さらに乱されてしまう。
「俺がいなくなってからお前、俺の側に転がったんだよ」
「でも……」
眠っている間の記憶がないのだからそう言われてしまえば信じるしかないのかも知れない。だけど、何となくそうじゃない気がして。
(だって……なんだか手に……)
ソワソワと京介を見上げたら、「まぁ確かにお前がベッドん中でコロコロコロコロよく転がり回るから何度も起こされちまったが……寝られてねぇわけじゃねぇから心配すんな」とクスクス笑われてしまう。
幼な子じゃないのだから、いくら何でもそんなに動き回るはずはないと思いたい。現に今まで家ではシングルサイズの寝具で寝ていたけれど、そこからはみ出して目覚めたことなんて一度もないのだ。
京介の意地悪そうな笑顔でそれを見抜いた芽生が「京ちゃんの嘘つきっ」と彼の胸元をポスポス叩いたら、ギューッと鼻先を摘まれてしまった。
「痛い」
「――けど、まぁ、年頃の娘が男にしがみついて寝るのは感心しねぇなぁ?」
そのままデコピンをされて、京介からはぁーと大きく吐息を落とされた芽生は、記憶の片隅――何となく温かな抱き枕に取り縋って眠っていた感触が腕に残っている気がして、ブワッと頬を赤らめた。
さっき、京介の言葉を手放しに信じられなかったのも、身体が京介の温もりを覚えている気がしたからだ。
「あ、あの……京ちゃん。……それ、本当?」
「さぁ、どっちだろうな?」
ククッと笑う京介のせいで、結局どこまでが嘘でどこからが真実なのか、芽生には分からなかった。
***
「朝ご飯は私がっ」
何とか名誉挽回しようと意気込んでキッチンに立ってみた芽生だったのだけれど、冷蔵庫を開けてがっかりした。
「京ちゃん、この冷蔵庫の中、飲み物しか入ってない!」
結構大きな冷蔵庫なのに、京介に許可を取ってカパッと扉を開けてみたら、清々しいくらい食べられそうなものが入っていなかった。
ずらりと並んでいるのはビールばかり。
それから昨日夕飯の時、芽生が飲ませてもらったと思しき飲み掛けの麦茶のペットボトルが一本。
水はウォーターサーバーが台所と、寝室にあるからそれで間に合わせているんだろう。入っていなかった。
「いつもご飯とかどうしてるの?」
出鼻をくじかれた芽生が、あくびを噛み殺しながらコーヒーメーカーをセットし始めた京介へ恨みがましく問い掛ければ、「朝は食わねぇな」とか。ついでに昼や夜は基本外食で済ませるという。
「不健康だし不経済だよぅ!」
朝は一日の基本だから食べないのは良くないし、昼と夜の外食にしたって、京介のことだからきっと安くはない出費を重ねているに違いない。
そう思いながらブーブー言い始めた芽生を、「どうした? 今朝はやけに機嫌悪ぃーな? あー、ひょっとして腹減ってるからか?」と犬でも可愛がるみたいに髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回してから、「ヨシヨシ。すぐに手配してやるからな」と言って、京介が電話を掛け始める。
「石矢か? 悪ぃーけど迎えついでに牛乳と……」
そこまで言って、「何か食いたいもんのリクエストあるか?」と芽生の顔を覗き込んできた。
「卵とハムと食パンとお米! あとお肉とか野菜とか……そういうのも沢山買いたい!」
「いや、子ヤギ。そりゃ材料だろ。俺が言ってんのはすぐ食えるモンの話だぞ?」
「卵もハムも食パンも、焼くだけですぐ食べられるもん! キュウリとかミニトマトとかレタスとか添えたら、それなりの朝食になるよ!? カップスープも買ってきたら完璧かも知んない!」
芽生はそこに関しては譲る気なんてないのだと鼻息を荒くした。
「もちろん京ちゃんも食べるのよ!? 石矢さんも朝ご飯まだなら一緒に食べたらいいし!」
「は? だから俺は朝は……」
「朝食抜きは許しません!」
芽生の勢いに押されて、京介は思わず「お……おぅ」と返事をしてしまっていた。
そんなわけで、石矢はコンビニで卵やパンやハム、生野菜などを買って、京介のマンション下まで二人を迎えに来ることになったのだった。
***
結局石矢も交えて三人で食卓を囲んだ後、京介から「今日はお前に必要なモン、買いに行くぞ」と言われた芽生は、石矢の運転でデパートまで連れてこられた。
「京ちゃん今日お仕事は?」
自分は火事で焼け出された直後と言うこともあって、しばらくは仕事を休むことにしているけれど、京介は違う。
昨夜千崎に渋い顔をされたのを思い出しながら尋ねたら、買い物後にちゃんと行くという答えが返ってきた。京介の仕事はある意味自営業みたいなものなので、時間的な縛りはないのだと説明されれば、裏稼業事情に疎い芽生は納得するしかない。