組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
日頃はウインドウショッピングしかしないようなお店で、ブランド品の服やら高級コスメブランドの化粧品などを買いそろえられながら、芽生は思ったのだ。
(全部デパートで買うとか高すぎるよぅ!)
と。
いつもならメイクグッズはドラッグストアなどでプチプラのモノを買っているし、服だってファストファッションを扱っている『ウニクロ』とか『ファッションセンターしまむた』なんかで買うようにしている。
京介に連れられて入った店は、ブラウス一着で、芽生がいつも買っている服なら上から下まで二セットずつはそろえられそうな値段だったから、店員に試着を勧められるたびタグを見ては心臓がバクバクしてしまった。
それを懸命に訴えた芽生だったのだけれど、京介の言い分ではあちこちウロウロする方が面倒だし時間の無駄らしい。要するにタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスを天秤にかけた結果、タイパが重視されたということだ。
高すぎる買い物に戸惑いは隠せなかったけれど、京介のみならず石矢にも仕事の時間を削って買い物に付き合ってもらっているという負い目がある芽生は、それ以上言い募れなかった。
***
「じゃあ芽生、俺は仕事に行ってくるが……俺の留守中は絶対家から出ねぇようにすんだぞ?」
デパートから帰ってきて大量の荷物をリビングへ置くなり京介の携帯が鳴って、千崎が下で待っていると連絡が入る。
車で待機している石矢からの電話に、京介が高級そうな腕時計に視線を落としながら、芽生にそんなことを言ってきた。
「えっ?」
京介がいない間に一人で近所のスーパーへ出向いて、もう少し食材を買い足そう……とか考えていた芽生は、京介からの言葉にキョトンとしてしまう。
「京ちゃん、私、お買い物に行こうと思ってたんだけど」
ちらちらと冷蔵庫を気にしながら言ったら、京介がすかさず「バカだな、芽生。お前、この家の鍵、持ってねぇだろーが」とエレベーターを動かしたりするために使用していたカードキーを見せられる。
今手配中だというここのスペアキーが出来るまでは、勝手に外へ出たら部屋に戻れなくなってしまうらしい。こういう高級マンションのことはよく分からない芽生だったけれど、確かに京介と一緒に何度かここを出入りしてみた感じから、キーがないと玄関扉を開けられないのはもちろんのこと、エレベーターでこの階に降り立つことすら出来ないなと今さらのように気が付いた。
今まで住んでいたおんぼろな平屋とは全く違うセキュリティ具合に、芽生はグッと言葉に詰まってしまう。
「ねぇ京ちゃん、鍵はどのくらいで出来るの?」
「あー……、さてな。詳しく聞いてねぇから分かんねぇけど……多分結構日数掛かんじゃね?」
今、京介が、〝何かを隠して言いよどんだ〟ように見えたのは、芽生の気のせいだろうか?
「京ちゃん?」
なんとなく違和感を覚えて芽生が京介をじっと見詰めたら、京介は決まり悪そうにそんな芽生から視線をふっと逸らせると「まぁー、その話はあとだ。時間ねぇからもう行くな? ほら。千崎のヤローはあんま待たせっとネチネチうるせぇからな」とか。
京介は絶対に自分に何かを隠していると確信した芽生だったけれど、きっと今は何を聞いてもはぐらかされてしまうと思って「行ってらっしゃい。気を付けてね」と見送るに留めておく。
モヤモヤとしたものはありつつも、玄関先で大好きな人を送り出すことが出来るとか、新婚さんみたい! と思ったら、少しだけ気持ちが晴れた。
笑顔で手を振る芽生に、京介は玄関を出る間際、もう一度だけ「いいな? 絶対外出禁止だからな? あと、誰が来ても居留守使え。勝手に応対するなよ? 分かったな?」と念押ししてきて。芽生は(京ちゃんってば心配性ね)と思いながらも、「はーい」と返事をしておいた。
京介が過保護なのは、なにも今に始まったことではない。
芽生としては、そんな軽い気持ちだったのだ。その気の緩みがあんな結果を産むだなんてこと、その時の芽生は思いもしなかったのだから仕方がない。
***
買い出しには行けなくなった芽生だったけれど、リビングにどっさり積み上げられた有名なアパレルブランドの袋や、高級コスメブランドの包みの山を見て、はぁーっと溜め息を落とさずにはいられなかった。
とりあえずあれを仕舞うだけでも結構時間を食いそうで、もしかしたら京介に外出禁止令を出されなくても、買い物に行くのは難しかったかも知れない。
買ってもらったばかりの品々を少しずつ自室に持ち込んでは袋から取り出してタグなどを切り離して整理していた芽生は、全てのタグから金額の部分だけ綺麗に切り取られていることに気が付いた。
ショップでは確かにここへ価格が表示されていたはずなのに、そういうところが全て綺麗になくなっていて――。それはコスメに関しても同じで、価格部分のシールが剥がされていたり別のシールで隠されていたりするその徹底ぶりに、京介の〝女性慣れ〟を垣間見てしまった気がした芽生は、なんだかモヤモヤしてしまう。
(京ちゃんのバカ……)
今日買ってもらったものは、全て京介から「見舞いみたいなもんだ」と言われている。家を焼け出されたんだから甘えておけ、と言うことらしいのだが、もしかしたら京介が芽生に支払えそうにない高価格帯の店ばかりを選んで買い物したのは、プレゼント向けとして買ったものを「あとでちゃんとお金返すね」と芽生に言わせないためだったのかも知れない。
昔から京介にはそういうスマートな気遣いの出来るところがあって、芽生にとってはそこが京介を大人の男性に見せてくれて、尚のこと恋情を募らせる要因になっていたのだけれど、それは裏を返せば女性慣れしているとも取れるのだと気が付いた。
芽生が鬱々とした気持ちのまま荷物整理をしていたら、不意に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
京介には居留守を決め込めと言われていたけれど、何となく反抗心が芽生えてインターフォンに応答してしまった芽生である。
芽生が【通話】ボタンを押すなりパッと明るくなった画面に、一人の男が映し出された。
(全部デパートで買うとか高すぎるよぅ!)
と。
いつもならメイクグッズはドラッグストアなどでプチプラのモノを買っているし、服だってファストファッションを扱っている『ウニクロ』とか『ファッションセンターしまむた』なんかで買うようにしている。
京介に連れられて入った店は、ブラウス一着で、芽生がいつも買っている服なら上から下まで二セットずつはそろえられそうな値段だったから、店員に試着を勧められるたびタグを見ては心臓がバクバクしてしまった。
それを懸命に訴えた芽生だったのだけれど、京介の言い分ではあちこちウロウロする方が面倒だし時間の無駄らしい。要するにタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスを天秤にかけた結果、タイパが重視されたということだ。
高すぎる買い物に戸惑いは隠せなかったけれど、京介のみならず石矢にも仕事の時間を削って買い物に付き合ってもらっているという負い目がある芽生は、それ以上言い募れなかった。
***
「じゃあ芽生、俺は仕事に行ってくるが……俺の留守中は絶対家から出ねぇようにすんだぞ?」
デパートから帰ってきて大量の荷物をリビングへ置くなり京介の携帯が鳴って、千崎が下で待っていると連絡が入る。
車で待機している石矢からの電話に、京介が高級そうな腕時計に視線を落としながら、芽生にそんなことを言ってきた。
「えっ?」
京介がいない間に一人で近所のスーパーへ出向いて、もう少し食材を買い足そう……とか考えていた芽生は、京介からの言葉にキョトンとしてしまう。
「京ちゃん、私、お買い物に行こうと思ってたんだけど」
ちらちらと冷蔵庫を気にしながら言ったら、京介がすかさず「バカだな、芽生。お前、この家の鍵、持ってねぇだろーが」とエレベーターを動かしたりするために使用していたカードキーを見せられる。
今手配中だというここのスペアキーが出来るまでは、勝手に外へ出たら部屋に戻れなくなってしまうらしい。こういう高級マンションのことはよく分からない芽生だったけれど、確かに京介と一緒に何度かここを出入りしてみた感じから、キーがないと玄関扉を開けられないのはもちろんのこと、エレベーターでこの階に降り立つことすら出来ないなと今さらのように気が付いた。
今まで住んでいたおんぼろな平屋とは全く違うセキュリティ具合に、芽生はグッと言葉に詰まってしまう。
「ねぇ京ちゃん、鍵はどのくらいで出来るの?」
「あー……、さてな。詳しく聞いてねぇから分かんねぇけど……多分結構日数掛かんじゃね?」
今、京介が、〝何かを隠して言いよどんだ〟ように見えたのは、芽生の気のせいだろうか?
「京ちゃん?」
なんとなく違和感を覚えて芽生が京介をじっと見詰めたら、京介は決まり悪そうにそんな芽生から視線をふっと逸らせると「まぁー、その話はあとだ。時間ねぇからもう行くな? ほら。千崎のヤローはあんま待たせっとネチネチうるせぇからな」とか。
京介は絶対に自分に何かを隠していると確信した芽生だったけれど、きっと今は何を聞いてもはぐらかされてしまうと思って「行ってらっしゃい。気を付けてね」と見送るに留めておく。
モヤモヤとしたものはありつつも、玄関先で大好きな人を送り出すことが出来るとか、新婚さんみたい! と思ったら、少しだけ気持ちが晴れた。
笑顔で手を振る芽生に、京介は玄関を出る間際、もう一度だけ「いいな? 絶対外出禁止だからな? あと、誰が来ても居留守使え。勝手に応対するなよ? 分かったな?」と念押ししてきて。芽生は(京ちゃんってば心配性ね)と思いながらも、「はーい」と返事をしておいた。
京介が過保護なのは、なにも今に始まったことではない。
芽生としては、そんな軽い気持ちだったのだ。その気の緩みがあんな結果を産むだなんてこと、その時の芽生は思いもしなかったのだから仕方がない。
***
買い出しには行けなくなった芽生だったけれど、リビングにどっさり積み上げられた有名なアパレルブランドの袋や、高級コスメブランドの包みの山を見て、はぁーっと溜め息を落とさずにはいられなかった。
とりあえずあれを仕舞うだけでも結構時間を食いそうで、もしかしたら京介に外出禁止令を出されなくても、買い物に行くのは難しかったかも知れない。
買ってもらったばかりの品々を少しずつ自室に持ち込んでは袋から取り出してタグなどを切り離して整理していた芽生は、全てのタグから金額の部分だけ綺麗に切り取られていることに気が付いた。
ショップでは確かにここへ価格が表示されていたはずなのに、そういうところが全て綺麗になくなっていて――。それはコスメに関しても同じで、価格部分のシールが剥がされていたり別のシールで隠されていたりするその徹底ぶりに、京介の〝女性慣れ〟を垣間見てしまった気がした芽生は、なんだかモヤモヤしてしまう。
(京ちゃんのバカ……)
今日買ってもらったものは、全て京介から「見舞いみたいなもんだ」と言われている。家を焼け出されたんだから甘えておけ、と言うことらしいのだが、もしかしたら京介が芽生に支払えそうにない高価格帯の店ばかりを選んで買い物したのは、プレゼント向けとして買ったものを「あとでちゃんとお金返すね」と芽生に言わせないためだったのかも知れない。
昔から京介にはそういうスマートな気遣いの出来るところがあって、芽生にとってはそこが京介を大人の男性に見せてくれて、尚のこと恋情を募らせる要因になっていたのだけれど、それは裏を返せば女性慣れしているとも取れるのだと気が付いた。
芽生が鬱々とした気持ちのまま荷物整理をしていたら、不意に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
京介には居留守を決め込めと言われていたけれど、何となく反抗心が芽生えてインターフォンに応答してしまった芽生である。
芽生が【通話】ボタンを押すなりパッと明るくなった画面に、一人の男が映し出された。