組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
9.ひとりには出来そうにない
 盛大な溜め息に振り返った芽生(めい)の視界に、大好きな京介の姿が映った。
 部屋に入ってすぐの時には京介の姿は見えなかったはずだ。とすれば、あえて死角に入っていたのだろうか? でも何故?
 そう疑問に感じながらも、芽生は「京ちゃんっ!」と彼の名を呼んで、駆け寄らずにはいられなかった。

 怪我をしたと聞いていたのに、パッと見、京介はどこにもそんな様子はなくて、ひとまずホッとした芽生である。でも、すぐさま服で見えないところに怪我を負っているのかも? と思い至って不安に駆られた。
「京ちゃん、怪我はっ? じっとしてなくて平気なのっ!?」
 四面楚歌(しめんそか)に思えていた状況の中、周りを怖い顔の男性たちに囲まれているのも忘れて、芽生は京介の身体をペタペタと触りまくる。
 途端、周りがザワザワし始めたのだけれど、ちょっぴり殺気立ったその雰囲気にも、京介の安否確認に夢中な芽生は気付けない。
 いつの間にそばへ来ていたのだろう? 芽生と京介のそばに千崎(せんざき)がいて、咳払いとともに京介から芽生のことを引き剥がした。
「千崎さん……?」
 いつもなら少々スキンシップをはかったところで目をつぶってくれるはずの千崎なのに、今日はいつもに増して芽生のことを苦々しい表情で見下ろしてくるのは何故だろう?
 その雰囲気に気圧(けお)されて、芽生が京介を見上げたら、京介も何だかとっても怖い顔をしていた。
「あ、あの……京、ちゃん……?」
 そういえば、いつもなら芽生が駆け寄れば、呆れながらもすぐさま抱きしめてくれる京介なのに、今回はそれがない。ばかりか、物凄く怖い顔で見下ろされていることに、芽生はにわかに不安になった。
 (怪我のせいでピリピリしてる?)とふと思ったけれど、どうやらそういうわけでもなさそうな……。

「三井、木田、佐山、手間ぁ掛けたな」
 そればかりか、芽生をだましてここまで(さら)ってきた(?)三名に(ねぎら)いの言葉まで掛ける京介に、芽生はますますわけが分からなくなる。
 京介からの心遣いに、皆を代表したみたいに三井が「いえ、《《カシラのご命令》》とあればいくらでも」と(うやうや)しく(こうべ)を垂れて……。その様子を見ていた芽生は「私をここまで(さら)ってきたの、ひょっとして京ちゃんの指示だったの?」とつぶやかずにはいられない。
「もしかして……怪我したっていうのも、嘘?」
 心配したのに! と思えば、口調が非難がましくなってしまうのは許して欲しい。
「怪我ぁ? 何のことだか分かんねぇーけど……芽生。俺は(おりゃぁ)何があっても家から出るなって言わなかったか?」
 なのに、京介は芽生の質問に答えてくれないばかりか、逆に聞いたことのないような低い声音で「何、のこのこ誘い出されてんだよ? あ?」と、問い掛けてくる。それは昨夜千崎と話していた時の京介を思い起こさせて、芽生は何だかすごく悲しくなった。
「言われ、た……」
 小さな声で弱々しく答えた芽生に、京介はなおも怖い顔のまま続けるのだ。
「だったら何で、ここにいる?」
 芽生は京介の尋問口調に、泣かないようグッと唇を噛みしめた。
「こら! ……んなことすんな! 唇が切れちまうだろ!」
 芽生が言うことを聞かなかったことを物凄く怒っているように振る舞うくせに、芽生が自分を傷つけかねないことをしたらすぐさま芽生を甘やかすみたいに頬へ手を当ててくる。そんな京介に、芽生はとうとう我慢出来なくなって泣きながら感情をぶつけていた。
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