組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「まぁそれはそれとして、だ――」
 腕の中に囲ったままの芽生(めい)を、力を緩めて真正面から見下ろすと、京介が声のトーンを低める。
「子ヤギは塩大福、お預けな?」
「えっ!?」
 提案したのは芽生(じぶん)なのに、何故そんな意地悪を言うの? と芽生が非難がましく眉根を寄せて京介を見上げたと同時、ピシッとデコピンをされてしまった。
「痛いっ」
 じんじんと痛むおでこを押さえて京介を睨んだら、「俺の言い付け守れなかったくせに、褒美があると思ってんのか、バカ娘」と怖い顔をされる。
「でもっ」
「でももカカシもねぇわ。お前の命に係わることだぞ? 分かってんのか?」
 今まで命を狙われるような生活なんてしたことのない娘だったから、芽生にそういう感覚が薄いのは京介にも分かっていた。分かっていたからこそ、散々出掛けに釘を刺して……それでも気になったから組員を使って試すような真似までしたのだ。
 なんせ放火犯の目的だって不明なままなのだ。芽生自身が命を狙われた可能性だってあるし、真相がハッキリするまでは自分のそばへ置くことになる。そうなれば京介自身を狙う(やから)からターゲットにされる可能性だってあるのだから、嫌でも警戒してもらわなきゃ困るのだ。
 なのに――。
 まさか今朝の今でこんなにいとも容易(たやす)く芽生が(おび)き出されてくるなんて、誰が考えるだろう。
 あえて部屋のキーを渡さずに身動きを封じたというのに、有事の際、マンション内へ逃げ込めないだけ、キーを持たせていない方が悪手(あくしゅ)に思えたほどだ。
「とりあえず、これ」
 そう考えながら、自宅マンションのスペアキーを芽生に渡すと、「もう出来たの?」と小首を傾げられた。
 まぁ今朝の段階ではいつ出来るか分からないと言ってあったカードキーだったから、当然と言えば当然の反応だ。
「バカ娘がほろほろ出歩かねぇーよう、渡さなかっただけだ」
「えっ」
「効果なんてなかったがな」
 はぁーっと大きく溜め息を吐いた京介に、芽生は()が悪いと思ったのだろう。それ以上、スペアキー隠匿(いんとく)については抗議の声を上げなかった。

(それにしても……)
 京介はそんな無防備な芽生を見下ろして思案する。
(やっぱコイツ一人で留守番させんのは心配だなぁ)
 かといって、若い衆を家に差し向けて、彼女と過ごさせるのは何だか危なげだと思ってしまう。
 しばし考えた京介は、携帯を取り出すと、自分が一番信頼のおける相手に頼ることにした。
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