組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
今日は十二月二十日だ。
京介の家に居候をするようになって以来、何だかんだで外出がままならない状態の芽生は、例年ほどクリスマスムードを満喫出来ていない。だが、佐山が運転する車の外を流れていく街の景色は、そこかしこがクリスマスめいていてワクワクする。
なのに、ツリーもリースもない京介の家の殺風景さに、芽生はちょっぴり不満を抱いていた。
大手通販サイト『JUNGLE』を利用したくても、住所が分からなくてお届け先入力画面で立ち止まってしまった芽生は、今日ATMでお金を降ろしたら、ついでにちょっぴり街を散策してみるつもりでいる。
京介には内緒でクリスマスパーティーの準備をしたいので、マンションの住所を聞くのはそれが終わってからにするつもりだ。
(ケーキの予約、間に合うかな?)
実は二十五日は芽生の誕生日だが、この時期は基本的にクリスマスケーキしかない。今まで京介以外からクリスマス仕様以外のケーキで祝われたことのない芽生には誕生日ケーキという発想自体がないのだ。
佐山には却下されてしまったけれど、車から降りられさえすれば何とかなるんじゃないだろうか。
「ぶんぶん、私が利用している銀行のATMね、この近くだとワオンモールの中にしかないの」
「はぁっ!? 入金先、郵便局とかじゃねぇのかよ」
「ごめんね。お金が振り込まれるの、縁海原信用金庫なの。あっ、カムカムの近くになら支店があるんだけど……」
「あそこらはダメだ」
元の勤め先であるファミリーレストラン『カムカム』の近隣に、カムカムがメインバンクにしていた南支店があるのだが、細波に見つからないためだろう。京介の指示であの辺りには近付いてはいけないと言われている。
もちろん、芽生だってそんなことは先刻承知。却下されるのが分かっていてわざと南支店の存在を示唆したのだ。こういう話し方をすれば、ATM行きを約束してくれた佐山は、芽生をワオンモールに連れて行くしかないと見越してのことだ。
(ごめんね、ぶんぶん)
小賢しい真似をしている自覚はあるし、良くしてくれる佐山の裏をかこうとしていることに罪悪感がないわけじゃない。
でも――。
京介にクリスマスプレゼントを買いたいのは当然として、良くしてくれる長谷川建設や相良組のみんな、それからいつも送り迎えしてくれている佐山にも何かを渡せたらと思っている。
それとは別、小さな卓上ツリーを買って、食卓の上に置くのもテンションが上がっていいかもしれない。
古い一軒家に住んでいた時も、芽生は百円ショップで三百円商品として売られていた手のひらサイズの小さなガラス製のツリーを買って飾っていた。お手頃価格の割に、ボタン電池でイルミネーションも点る可愛いツリーだった。
(あれも焼けちゃった……)
考えたら悲しくなりそうで、芽生はフルフルと頭を振って沈みかけた心を追い出すと、(ワオンモールには百円ショップも入っていたよね。せっかくだから新調しよう!)と気持ちを切り替える。
窓外を流れていく景色を眺めながら、芽生はこぶしをギュッと握り締めた。
***
ワオンモールの平面駐車場は満車だったので、立体駐車場に車を停めた。
沢山の車がひしめき合う駐車場内は人の往来も結構あるし、防犯カメラもあちこちに設置されているから車を離れても大丈夫だと判断したらしい。あろうことか、佐山が芽生についてくると言う。
「えっ。大丈夫だよ? ササッと行って帰ってくるから」
ソワソワと芽生が瞳を泳がせるのを目ざとく見つけた佐山が、「お前、何か企んでんだろ。一人に出来るかよ」と吐息を落とした。
(ブンブン、察しが良すぎ!)
私のこっそりお買い物計画が! と心の中で悲鳴を上げる芽生の半歩後ろを、佐山がぴったりと張り付いてくる。
「あ、あの……ブンブン。一緒に行くんなら、せめて横を歩いて欲しい」
そう言ってみたけれど、佐山は「背後から見てる方がガードしやすいんだよ」とか、わけの分からないことを言って芽生の提案を拒んだ。
実際には下手に姐さん(候補)の横を歩いて、万が一にも組の人間に見られたりしたら面倒なことになるという配慮からだったのだが、京介以外を異性と認識していない芽生は微塵も気付けなかった。
佐山にあとを付けられるようにして歩きながら、芽生は頭の中でアレコレと思いを巡らせる。
京介の家に居候をするようになって以来、何だかんだで外出がままならない状態の芽生は、例年ほどクリスマスムードを満喫出来ていない。だが、佐山が運転する車の外を流れていく街の景色は、そこかしこがクリスマスめいていてワクワクする。
なのに、ツリーもリースもない京介の家の殺風景さに、芽生はちょっぴり不満を抱いていた。
大手通販サイト『JUNGLE』を利用したくても、住所が分からなくてお届け先入力画面で立ち止まってしまった芽生は、今日ATMでお金を降ろしたら、ついでにちょっぴり街を散策してみるつもりでいる。
京介には内緒でクリスマスパーティーの準備をしたいので、マンションの住所を聞くのはそれが終わってからにするつもりだ。
(ケーキの予約、間に合うかな?)
実は二十五日は芽生の誕生日だが、この時期は基本的にクリスマスケーキしかない。今まで京介以外からクリスマス仕様以外のケーキで祝われたことのない芽生には誕生日ケーキという発想自体がないのだ。
佐山には却下されてしまったけれど、車から降りられさえすれば何とかなるんじゃないだろうか。
「ぶんぶん、私が利用している銀行のATMね、この近くだとワオンモールの中にしかないの」
「はぁっ!? 入金先、郵便局とかじゃねぇのかよ」
「ごめんね。お金が振り込まれるの、縁海原信用金庫なの。あっ、カムカムの近くになら支店があるんだけど……」
「あそこらはダメだ」
元の勤め先であるファミリーレストラン『カムカム』の近隣に、カムカムがメインバンクにしていた南支店があるのだが、細波に見つからないためだろう。京介の指示であの辺りには近付いてはいけないと言われている。
もちろん、芽生だってそんなことは先刻承知。却下されるのが分かっていてわざと南支店の存在を示唆したのだ。こういう話し方をすれば、ATM行きを約束してくれた佐山は、芽生をワオンモールに連れて行くしかないと見越してのことだ。
(ごめんね、ぶんぶん)
小賢しい真似をしている自覚はあるし、良くしてくれる佐山の裏をかこうとしていることに罪悪感がないわけじゃない。
でも――。
京介にクリスマスプレゼントを買いたいのは当然として、良くしてくれる長谷川建設や相良組のみんな、それからいつも送り迎えしてくれている佐山にも何かを渡せたらと思っている。
それとは別、小さな卓上ツリーを買って、食卓の上に置くのもテンションが上がっていいかもしれない。
古い一軒家に住んでいた時も、芽生は百円ショップで三百円商品として売られていた手のひらサイズの小さなガラス製のツリーを買って飾っていた。お手頃価格の割に、ボタン電池でイルミネーションも点る可愛いツリーだった。
(あれも焼けちゃった……)
考えたら悲しくなりそうで、芽生はフルフルと頭を振って沈みかけた心を追い出すと、(ワオンモールには百円ショップも入っていたよね。せっかくだから新調しよう!)と気持ちを切り替える。
窓外を流れていく景色を眺めながら、芽生はこぶしをギュッと握り締めた。
***
ワオンモールの平面駐車場は満車だったので、立体駐車場に車を停めた。
沢山の車がひしめき合う駐車場内は人の往来も結構あるし、防犯カメラもあちこちに設置されているから車を離れても大丈夫だと判断したらしい。あろうことか、佐山が芽生についてくると言う。
「えっ。大丈夫だよ? ササッと行って帰ってくるから」
ソワソワと芽生が瞳を泳がせるのを目ざとく見つけた佐山が、「お前、何か企んでんだろ。一人に出来るかよ」と吐息を落とした。
(ブンブン、察しが良すぎ!)
私のこっそりお買い物計画が! と心の中で悲鳴を上げる芽生の半歩後ろを、佐山がぴったりと張り付いてくる。
「あ、あの……ブンブン。一緒に行くんなら、せめて横を歩いて欲しい」
そう言ってみたけれど、佐山は「背後から見てる方がガードしやすいんだよ」とか、わけの分からないことを言って芽生の提案を拒んだ。
実際には下手に姐さん(候補)の横を歩いて、万が一にも組の人間に見られたりしたら面倒なことになるという配慮からだったのだが、京介以外を異性と認識していない芽生は微塵も気付けなかった。
佐山にあとを付けられるようにして歩きながら、芽生は頭の中でアレコレと思いを巡らせる。