組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「あれは! お前にゃ似合わねぇーから、全部破棄して総入れ替えすんだよ!」
何故か怒ったように言う京介に、「そんなの、もったいない!」と抗議した芽生は、即座に京介から「もったいなくねぇわ!」とやや食い気味に切り返されてしまう。
いくら京介からの支給品とはいえ、下着は今や、芽生のものだ。あまりに理不尽な京介の言い分に、『なんでそんなに機嫌悪いの?』と問おうとした芽生だったのだけれど。
折悪しくエレベーターが一階へ着いて、話はそこで頓挫してしまった。
***
どうも昨夜見た芽生の下着姿が頭から離れなくて困る。
本当はもっと自然に接したいのに、つい服の下のあれこれを想像してしまって落ち着かない京介なのだ。
(最近、芽生に掛かりっきりで女、抱いてないからに違いねぇ)
きっと欲求不満なのだ。
どうにかこうにかいつも通りを装っている京介の横で、芽生はイヤになるくらい《《通常運転》》。
そればかりか、あんなに地雷だと教えたはずの佐山のことまで聞いてくる始末。本気で《《昨夜のことなんて気にしていない》》みたいだ。なんだか自分ばかり意識しているようでたまらなく腹立たしいではないか。
(誰だよ、あんなエロ下着を選んだ奴は!)
芽生に渡した下着は全て、相良組の息が掛かったランジェリーショップで手配したものだった。
サイズだけは伝えたけれど、店へ行く時間はなかったので「適当に見繕ってくれ」と、女性オーナー――千崎の情婦――に頼んだ。その絡みで結局引き取りも千崎に行ってもらったから、まさかあんなセクシーランジェリーを芽生に渡しているとは思いもしなかった京介である。
(ああいうのは情婦に着させる下着だろ!)
断じて芽生用ではない。
そこまで考えて、用途を伝えていなかったことを思い出した京介は、馴染みのオーナーが《《京介好み》》の下着を《《いつも通り》》用意してくれただけだと思い至った。
(結局は俺のせいかよ)
テンパっていたとはいえ、芽生にあんな破廉恥な下着の着用を強要してしまったことに、京介は軽い目眩を覚えた。
だからこそ買い替えが必要だと思ったのだが――。
芽生が案外なにも思っていなさそうなことが、何故か無性にムカついた。
***
てっきり会社前まで送り届けてくれたら『また夕方にな?』だとばかり思っていたのに、京介は当然のように運転手の石矢だけを残して芽生についてきた。
「京ちゃん?」
佐山は帰りこそしなかったけれど、車を降りていく芽生を車内から『行ってこい』と見送るだけだったので、(何事かしら?)と小首を傾げた芽生である。その仕草に気付いたんだろう。京介が「ちぃーと長谷川に用があんだよ」とこちらを見ないままに答えた。考えてみれば長谷川社長と京介は幼なじみ。話があっても不思議じゃないかと思った芽生だったのだけれど。
「おはようございます」
事務所の引き戸を開けて挨拶した芽生に「おはよう」と応えてくれながら、
「お? 今日は神田さんの送迎、相良か」
長谷川社長は芽生のすぐ背後へ立つ京介に、即座に気が付いた。
長谷川社長と話し始めた京介を尻目に、芽生はとりあえず自席へと向かう。そんな芽生に、静月が「相良さん、忙しいって話だったのに送迎、珍しいですね」と小声で話し掛けてきた。
芽生が静月に何て答えよう? と迷っていたら、
「あいつの世話係にしてた若い衆が《《芽生にそそのかされちまって》》下手打ってな。解任したんだ」
折悪しく、京介があっけらかんと長谷川社長へそんな報告をするものだから、芽生は思わず京介を睨んだ。すぐ隣にいる静月の視線が申し訳なさそうに揺れて見えるのは、多分気のせいじゃない。
「んなわけで、しばらくは俺が送り迎えする羽目になったっつーわけよ」
京介が芽生の抗議の眼差しなんて知らぬ気にそこまで言うと、「真面目そうな子だったのになぁ。やっぱ若い男の子に《《お前の可愛い子ちゃん》》任すのは無理だったか」と長谷川社長が話に乗ってしまう。
日頃空気を読んだ発言をしてくれる長谷川社長にしては有り得ない言動に、芽生は《《何か含み》》でもあるのでは? と勘繰ってしまった。でも残念ながら彼の真意がよく分からなくて……ただただ京介の機嫌をまた悪くしてしまう! と気が急くばかり。
何故か怒ったように言う京介に、「そんなの、もったいない!」と抗議した芽生は、即座に京介から「もったいなくねぇわ!」とやや食い気味に切り返されてしまう。
いくら京介からの支給品とはいえ、下着は今や、芽生のものだ。あまりに理不尽な京介の言い分に、『なんでそんなに機嫌悪いの?』と問おうとした芽生だったのだけれど。
折悪しくエレベーターが一階へ着いて、話はそこで頓挫してしまった。
***
どうも昨夜見た芽生の下着姿が頭から離れなくて困る。
本当はもっと自然に接したいのに、つい服の下のあれこれを想像してしまって落ち着かない京介なのだ。
(最近、芽生に掛かりっきりで女、抱いてないからに違いねぇ)
きっと欲求不満なのだ。
どうにかこうにかいつも通りを装っている京介の横で、芽生はイヤになるくらい《《通常運転》》。
そればかりか、あんなに地雷だと教えたはずの佐山のことまで聞いてくる始末。本気で《《昨夜のことなんて気にしていない》》みたいだ。なんだか自分ばかり意識しているようでたまらなく腹立たしいではないか。
(誰だよ、あんなエロ下着を選んだ奴は!)
芽生に渡した下着は全て、相良組の息が掛かったランジェリーショップで手配したものだった。
サイズだけは伝えたけれど、店へ行く時間はなかったので「適当に見繕ってくれ」と、女性オーナー――千崎の情婦――に頼んだ。その絡みで結局引き取りも千崎に行ってもらったから、まさかあんなセクシーランジェリーを芽生に渡しているとは思いもしなかった京介である。
(ああいうのは情婦に着させる下着だろ!)
断じて芽生用ではない。
そこまで考えて、用途を伝えていなかったことを思い出した京介は、馴染みのオーナーが《《京介好み》》の下着を《《いつも通り》》用意してくれただけだと思い至った。
(結局は俺のせいかよ)
テンパっていたとはいえ、芽生にあんな破廉恥な下着の着用を強要してしまったことに、京介は軽い目眩を覚えた。
だからこそ買い替えが必要だと思ったのだが――。
芽生が案外なにも思っていなさそうなことが、何故か無性にムカついた。
***
てっきり会社前まで送り届けてくれたら『また夕方にな?』だとばかり思っていたのに、京介は当然のように運転手の石矢だけを残して芽生についてきた。
「京ちゃん?」
佐山は帰りこそしなかったけれど、車を降りていく芽生を車内から『行ってこい』と見送るだけだったので、(何事かしら?)と小首を傾げた芽生である。その仕草に気付いたんだろう。京介が「ちぃーと長谷川に用があんだよ」とこちらを見ないままに答えた。考えてみれば長谷川社長と京介は幼なじみ。話があっても不思議じゃないかと思った芽生だったのだけれど。
「おはようございます」
事務所の引き戸を開けて挨拶した芽生に「おはよう」と応えてくれながら、
「お? 今日は神田さんの送迎、相良か」
長谷川社長は芽生のすぐ背後へ立つ京介に、即座に気が付いた。
長谷川社長と話し始めた京介を尻目に、芽生はとりあえず自席へと向かう。そんな芽生に、静月が「相良さん、忙しいって話だったのに送迎、珍しいですね」と小声で話し掛けてきた。
芽生が静月に何て答えよう? と迷っていたら、
「あいつの世話係にしてた若い衆が《《芽生にそそのかされちまって》》下手打ってな。解任したんだ」
折悪しく、京介があっけらかんと長谷川社長へそんな報告をするものだから、芽生は思わず京介を睨んだ。すぐ隣にいる静月の視線が申し訳なさそうに揺れて見えるのは、多分気のせいじゃない。
「んなわけで、しばらくは俺が送り迎えする羽目になったっつーわけよ」
京介が芽生の抗議の眼差しなんて知らぬ気にそこまで言うと、「真面目そうな子だったのになぁ。やっぱ若い男の子に《《お前の可愛い子ちゃん》》任すのは無理だったか」と長谷川社長が話に乗ってしまう。
日頃空気を読んだ発言をしてくれる長谷川社長にしては有り得ない言動に、芽生は《《何か含み》》でもあるのでは? と勘繰ってしまった。でも残念ながら彼の真意がよく分からなくて……ただただ京介の機嫌をまた悪くしてしまう! と気が急くばかり。