組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「だから! 京ちゃんがくれたのでいいって言ってるのに」
「俺が! 《《落ち着かなくて》》イヤなんだよ。お前があーいうイヤラシイの、身に着けてんの」
テンパりすぎていて、芽生がそのセリフを聞いた瞬間、「そっか。京ちゃん落ち着かないんだ……」と嬉しそうにつぶやいたことにも気付けないまま、京介は話が芽生の下着のことへ戻ってしまったことにばかり気を取られている。
「お前には……もっと清楚な方が似合う」
そうしてそのテンションのまま、観念したように付け加えた言葉はさらに芽生をニマニマさせたのだが、彼女のことを真正面から見られないでいる京介は、それも見落とした。
落ち着かない心持ちのまま無意識に胸元の煙草を探って、ここがワオンモール内で、喫煙所まで結構距離があることを思い出した京介は、あからさまに溜め息をつく。
「京ちゃん?」
たかだか女の下着ごときでやたらとワタワタしてしまっている自分が中坊みたいにダサくて気持ち悪い。そう思った京介は、気持ちを切り替えるように今度こそ話を下着から離した。
「それより芽生、この二十五日はテメェの誕生日だろーがよ。クリスマスとか騒いでる場合か」
今年は例年と違って家に芽生がいる。京介だって、クリスマスツリー云々が全く思い浮かばなかったわけじゃない。むしろ、組員たちから「今年は姐さんがいるんですから買うべきですよ」と言われまくったりもしたのだ。「誰が姐さんだ」と関係ないところに噛みつきながらも、自分にとってその日はクリスマスというより芽生の誕生日なんだよ、と心の中で言い訳をしたのを覚えている。
千崎なんかはさすがに心得たもので、最初からクリスマスを祝えとは言ってこなかった。
そもそも目の前にいる芽生が、養護施設では《《クリスマス会のついで》》のように誕生日を祝われていたことを知っている京介としては、自分と一緒にいる間くらいは《《芽生の誕生日のついで》》にクリスマスを祝うくらいのスタンスでいいと思っている。
なのに、当の本人が、「私の誕生日はクリスマスと一緒でいいよ」などとあっけらかんと言うのが、京介には腹立たしくてたまらないのだ。
「あ? 一緒とか有り得ねぇだろ。別々にやんぞ?」
「そんな……。もったいない」
「もったいなくねぇわ。祝い事は多い方が盛り上がんだろーが。とりあえずケーキは俺が用意すっからわざわざ買うな。分かったな?」
実はすでに人脈と金に物を言わせて一流パティシエに、《《誕生日ケーキ》》を手配してある。
この時期には市内、どこのケーキ屋も示し合わせたみたいにクリスマスケーキしか受け付けない感じになるのが、正直京介には納得いかないのだ。
(クリスマス生まれの人間にゃぁ誕生日を祝う権利はねぇのかよ)
それもこれも芽生の誕生日がその日だからそう感じるに過ぎないのだが、何が楽しくて芽生の誕生日によく知りもしない神の子とやらの生誕祭を祝わねばならないのだろう。
「本当?」
芽生は、今年は出遅れてどこのケーキ屋さんも《《クリスマスケーキの》》予約受け付けを終了していたのだと声を落としてから、「京ちゃん有難う」と礼を述べた。
芽生が、手配されているのはクリスマスケーキだと勘違いしていると気付いていた京介だったけれど、あえて訂正はしないでおいた。その方が、誕生日ケーキを出された時に芽生が喜ぶ気がしたからだ。
芽生が施設を出てからは、毎年芽生の誕生日には食事へ連れ出して、プレゼントをたんまり渡すのが常になっていた京介だったが、今年は家でのんびり祝うのも悪くないな、と思う。
ケーキは結構でかいホールを頼んであるから、なんなら組の奴らを呼んで盛大に祝うのもいいだろう。
本当は長谷川や静月も、と思ったのだが、京介だって恋人同士のクリスマスを邪魔するほど野暮じゃない。
「うちの組の者呼んでワイワイ騒ぐのと、いつもみたいに二人で祝うの、どっちがいい?」
京介が強いた不便さの中、例年通り自分のためにクリスマスプレゼントを用意してくれた芽生に、いつもより奮発して服やアクセサリーや化粧品なんかを買ってやろうと思い描きながら何の気なしに問えば、芽生が「みんなって……本当にみんな?」と眉根を寄せた。
その問い掛けの裏側に『佐山も?』という声を聞き取った京介は、小さく吐息を落とす。
「その頃にゃ、佐山の謹慎も解けてんだろ」
瞬間、芽生がホッとしたように表情を緩めたのがなんだか面白くないと思ってしまったのは気のせいだと思うことにした。
「俺が! 《《落ち着かなくて》》イヤなんだよ。お前があーいうイヤラシイの、身に着けてんの」
テンパりすぎていて、芽生がそのセリフを聞いた瞬間、「そっか。京ちゃん落ち着かないんだ……」と嬉しそうにつぶやいたことにも気付けないまま、京介は話が芽生の下着のことへ戻ってしまったことにばかり気を取られている。
「お前には……もっと清楚な方が似合う」
そうしてそのテンションのまま、観念したように付け加えた言葉はさらに芽生をニマニマさせたのだが、彼女のことを真正面から見られないでいる京介は、それも見落とした。
落ち着かない心持ちのまま無意識に胸元の煙草を探って、ここがワオンモール内で、喫煙所まで結構距離があることを思い出した京介は、あからさまに溜め息をつく。
「京ちゃん?」
たかだか女の下着ごときでやたらとワタワタしてしまっている自分が中坊みたいにダサくて気持ち悪い。そう思った京介は、気持ちを切り替えるように今度こそ話を下着から離した。
「それより芽生、この二十五日はテメェの誕生日だろーがよ。クリスマスとか騒いでる場合か」
今年は例年と違って家に芽生がいる。京介だって、クリスマスツリー云々が全く思い浮かばなかったわけじゃない。むしろ、組員たちから「今年は姐さんがいるんですから買うべきですよ」と言われまくったりもしたのだ。「誰が姐さんだ」と関係ないところに噛みつきながらも、自分にとってその日はクリスマスというより芽生の誕生日なんだよ、と心の中で言い訳をしたのを覚えている。
千崎なんかはさすがに心得たもので、最初からクリスマスを祝えとは言ってこなかった。
そもそも目の前にいる芽生が、養護施設では《《クリスマス会のついで》》のように誕生日を祝われていたことを知っている京介としては、自分と一緒にいる間くらいは《《芽生の誕生日のついで》》にクリスマスを祝うくらいのスタンスでいいと思っている。
なのに、当の本人が、「私の誕生日はクリスマスと一緒でいいよ」などとあっけらかんと言うのが、京介には腹立たしくてたまらないのだ。
「あ? 一緒とか有り得ねぇだろ。別々にやんぞ?」
「そんな……。もったいない」
「もったいなくねぇわ。祝い事は多い方が盛り上がんだろーが。とりあえずケーキは俺が用意すっからわざわざ買うな。分かったな?」
実はすでに人脈と金に物を言わせて一流パティシエに、《《誕生日ケーキ》》を手配してある。
この時期には市内、どこのケーキ屋も示し合わせたみたいにクリスマスケーキしか受け付けない感じになるのが、正直京介には納得いかないのだ。
(クリスマス生まれの人間にゃぁ誕生日を祝う権利はねぇのかよ)
それもこれも芽生の誕生日がその日だからそう感じるに過ぎないのだが、何が楽しくて芽生の誕生日によく知りもしない神の子とやらの生誕祭を祝わねばならないのだろう。
「本当?」
芽生は、今年は出遅れてどこのケーキ屋さんも《《クリスマスケーキの》》予約受け付けを終了していたのだと声を落としてから、「京ちゃん有難う」と礼を述べた。
芽生が、手配されているのはクリスマスケーキだと勘違いしていると気付いていた京介だったけれど、あえて訂正はしないでおいた。その方が、誕生日ケーキを出された時に芽生が喜ぶ気がしたからだ。
芽生が施設を出てからは、毎年芽生の誕生日には食事へ連れ出して、プレゼントをたんまり渡すのが常になっていた京介だったが、今年は家でのんびり祝うのも悪くないな、と思う。
ケーキは結構でかいホールを頼んであるから、なんなら組の奴らを呼んで盛大に祝うのもいいだろう。
本当は長谷川や静月も、と思ったのだが、京介だって恋人同士のクリスマスを邪魔するほど野暮じゃない。
「うちの組の者呼んでワイワイ騒ぐのと、いつもみたいに二人で祝うの、どっちがいい?」
京介が強いた不便さの中、例年通り自分のためにクリスマスプレゼントを用意してくれた芽生に、いつもより奮発して服やアクセサリーや化粧品なんかを買ってやろうと思い描きながら何の気なしに問えば、芽生が「みんなって……本当にみんな?」と眉根を寄せた。
その問い掛けの裏側に『佐山も?』という声を聞き取った京介は、小さく吐息を落とす。
「その頃にゃ、佐山の謹慎も解けてんだろ」
瞬間、芽生がホッとしたように表情を緩めたのがなんだか面白くないと思ってしまったのは気のせいだと思うことにした。