組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
18.芽生にできること
マンションの部屋に入って程なくしてチャイムが鳴った。
『石矢です』
京介が部屋内に設置されたインターホンへ応答すると、モニター画面に荷物を抱えた石矢が映る。
京介が「すまねぇな」とねぎらいの声を掛けてロックを解除すると、入口ドアが開いたらしく石矢がモニターから消えた。
京介の操作でこの階直通のエレベーターが一階まで降りて、石矢を運んでくるはずだ。
部屋の外扉にもカメラ付きのインターホンが設置されていて、階下からの時とは違う音で来訪者を知らせてくれる。
京介がそれに応答して再度石矢の姿を確認して玄関ロックを解除すると、やっと部屋の中まで入って来られる仕組みだ。
(いつものことながらセキュリティ凄いな)
マンション入口ドア、エレベーター、玄関扉。この三つの関所を室内から操作してもらわないと、鍵のない人間はこの部屋の中へ入れない。
京介の稼業を思えば当然なのかも知れないが、叩き割れば簡単に壊れそうな木製ドアに鍵が掛かるだけの古い一軒家に住んでいた芽生としては驚きの連続だ。
今は京介のお陰で、芽生もとても安全かつ快適に住まわせてもらっている。
京介が出してくれた真っ白なタオルを、部屋から持ってきた衣装ケース――とりあえず中身はベッドの上へ出した――へ敷いて、中に子猫を下ろした。
京介に手洗いと着替えを指示されて全部済ませてリビングへ戻ってみると、当たり前だけど石矢が来ていた。
「なぁ芽生。荷物は後から適当に部屋へ運ぶんでいいよな?」
京介の声に部屋の片隅を見遣れば、石矢が運んできてくれた荷物の山に占拠されていた。
「うん、それで大丈夫。――あの、石矢さん、沢山あったのに有難うございます。重かったでしょう?」
京介の言葉に頷きながら、芽生が石矢へ声を掛ける。
「温かいココアを入れようと思うんですけど、石矢さんも飲みませんか?」
窓際に立つ京介へ「いいよね?」と尋ねたら「ああ。けど俺はコーヒーで」と、返ってきた。
京介はいつもコーヒーメーカーで淹れるブラックコーヒーを飲んでいる。
ここでの生活にも大分慣れてきた芽生は、慣れた手つきでコーヒーメーカーをセットしてから、小鍋にカップ二杯分のミルクを注いで中火に掛ける。
殿様は、温かな部屋に安心したのか、衣装ケースの中で丸くなっていた。
それを確認した芽生は、食器棚から取り出したマグカップ二つにピュアココアと砂糖を入れて、ティースプーンで二種の粉が混ざるようにかき回してから、ウォーターサーバーのお湯をちょっとだけ注いで、ダマにならないようよく練った。
程よく温まった牛乳をゆっくりとカップへ注ぎながら匙でぐるぐるかき混ぜると、甘いココアの香りがふわりと匂い立つ。
同じことをもう一方のカップ内でもすると、一方を石矢の前へ置いて、もう一度殿様を見てから京介の様子を窺った。
どうやら電話がかかってきたらしく、京介は窓辺で声を低めて話し込んでいる。その横顔がやけに険しく見えて、芽生は不安に駆られたのだけれど、とりあえず石矢にも勧めて自分も淹れたてのココアを一口飲んだ。
「美味しい……」
ほっこりとつぶやきながら、猫の飼育用品をそろえないと、とか動物病院で健康チェックもしてもらわないと、とかぼんやりと考える。
以前なら佐山にお願いするところだけれど、現状だときっと石矢に運転してもらうことになるだろう。
そう思った芽生は、無言でココアを飲む石矢に視線を向けると、「あの、石矢さん。実はさっき、下で子猫を拾ったんです」と衣装ケースを指さした。
「ああ、カシラから聞きました」
「それで……」
「餌とか寝床とか必要なモン、そろえに行くんでしょう?」
どうやらすでに京介からそんな話が通っているらしい。皆まで言わずともそう示唆してくれた石矢に、芽生はコクコク頷いた。
「お手数おかけします」
言いながら頭を下げたら、「仕事ですから」とそっけない返事。
佐山なら嫌味のひとつでも返ってくるところだなと思って、芽生は吐息を落とした。
(ダメ、ダメ。ブンブンと比べたら石矢さんに悪い)
というより、京介を怒らせてしまう。
(京ちゃんには沢山プレゼントを買ってもらったし、殿様のものは自分で買わなきゃ)
これ以上京介に負担を掛けるわけにはいかない。
『石矢です』
京介が部屋内に設置されたインターホンへ応答すると、モニター画面に荷物を抱えた石矢が映る。
京介が「すまねぇな」とねぎらいの声を掛けてロックを解除すると、入口ドアが開いたらしく石矢がモニターから消えた。
京介の操作でこの階直通のエレベーターが一階まで降りて、石矢を運んでくるはずだ。
部屋の外扉にもカメラ付きのインターホンが設置されていて、階下からの時とは違う音で来訪者を知らせてくれる。
京介がそれに応答して再度石矢の姿を確認して玄関ロックを解除すると、やっと部屋の中まで入って来られる仕組みだ。
(いつものことながらセキュリティ凄いな)
マンション入口ドア、エレベーター、玄関扉。この三つの関所を室内から操作してもらわないと、鍵のない人間はこの部屋の中へ入れない。
京介の稼業を思えば当然なのかも知れないが、叩き割れば簡単に壊れそうな木製ドアに鍵が掛かるだけの古い一軒家に住んでいた芽生としては驚きの連続だ。
今は京介のお陰で、芽生もとても安全かつ快適に住まわせてもらっている。
京介が出してくれた真っ白なタオルを、部屋から持ってきた衣装ケース――とりあえず中身はベッドの上へ出した――へ敷いて、中に子猫を下ろした。
京介に手洗いと着替えを指示されて全部済ませてリビングへ戻ってみると、当たり前だけど石矢が来ていた。
「なぁ芽生。荷物は後から適当に部屋へ運ぶんでいいよな?」
京介の声に部屋の片隅を見遣れば、石矢が運んできてくれた荷物の山に占拠されていた。
「うん、それで大丈夫。――あの、石矢さん、沢山あったのに有難うございます。重かったでしょう?」
京介の言葉に頷きながら、芽生が石矢へ声を掛ける。
「温かいココアを入れようと思うんですけど、石矢さんも飲みませんか?」
窓際に立つ京介へ「いいよね?」と尋ねたら「ああ。けど俺はコーヒーで」と、返ってきた。
京介はいつもコーヒーメーカーで淹れるブラックコーヒーを飲んでいる。
ここでの生活にも大分慣れてきた芽生は、慣れた手つきでコーヒーメーカーをセットしてから、小鍋にカップ二杯分のミルクを注いで中火に掛ける。
殿様は、温かな部屋に安心したのか、衣装ケースの中で丸くなっていた。
それを確認した芽生は、食器棚から取り出したマグカップ二つにピュアココアと砂糖を入れて、ティースプーンで二種の粉が混ざるようにかき回してから、ウォーターサーバーのお湯をちょっとだけ注いで、ダマにならないようよく練った。
程よく温まった牛乳をゆっくりとカップへ注ぎながら匙でぐるぐるかき混ぜると、甘いココアの香りがふわりと匂い立つ。
同じことをもう一方のカップ内でもすると、一方を石矢の前へ置いて、もう一度殿様を見てから京介の様子を窺った。
どうやら電話がかかってきたらしく、京介は窓辺で声を低めて話し込んでいる。その横顔がやけに険しく見えて、芽生は不安に駆られたのだけれど、とりあえず石矢にも勧めて自分も淹れたてのココアを一口飲んだ。
「美味しい……」
ほっこりとつぶやきながら、猫の飼育用品をそろえないと、とか動物病院で健康チェックもしてもらわないと、とかぼんやりと考える。
以前なら佐山にお願いするところだけれど、現状だときっと石矢に運転してもらうことになるだろう。
そう思った芽生は、無言でココアを飲む石矢に視線を向けると、「あの、石矢さん。実はさっき、下で子猫を拾ったんです」と衣装ケースを指さした。
「ああ、カシラから聞きました」
「それで……」
「餌とか寝床とか必要なモン、そろえに行くんでしょう?」
どうやらすでに京介からそんな話が通っているらしい。皆まで言わずともそう示唆してくれた石矢に、芽生はコクコク頷いた。
「お手数おかけします」
言いながら頭を下げたら、「仕事ですから」とそっけない返事。
佐山なら嫌味のひとつでも返ってくるところだなと思って、芽生は吐息を落とした。
(ダメ、ダメ。ブンブンと比べたら石矢さんに悪い)
というより、京介を怒らせてしまう。
(京ちゃんには沢山プレゼントを買ってもらったし、殿様のものは自分で買わなきゃ)
これ以上京介に負担を掛けるわけにはいかない。