組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
『カシラ、電話、出られなくてすみません! 実は事務所が入ったビルに火がつけられまして……今みんな外へ出されてます。下着屋の件もあって大変でしょうが、落ち着いたらこっちにも顔出してやってください。下の者たちがざわついてまして……わたしじゃ抑え切れる自信がありません』
千崎も『YURIKA』の火事騒動へ駆り出されていて不在な状態での出火騒ぎとなると、事務所の方は大変なはずだ。あの事務所は部屋住みの者たちが寝起きするスペースも取ってあるから、そこを焼け出されたとあっては、その混乱ぶりは想像に難くない。
京介はすぐさま千崎に電話を掛けると、「すまん。事務所からも火が出た。俺はそっちに行くから……YURIKAの方はお前に頼んで構わねぇか?」と問い掛けた。
電話口から千崎が息を呑む気配がして、すぐさま『分かりました。こちらは私にお任せください』という声が返ってくる。
京介は苦々しい思いを噛み殺しながら、ハンドルを握る石矢に行き先変更を告げた。
よりによって、自分が不在にしている日に立て続けにこんなことが起こったのは、偶然だろうか?
***
先ほど細波に酷い扱いをされたけれど、子猫は無事だろうか? そっと上から覗き込むと、箱が横倒しになっていて、慌ててそれを元に戻したら、小さな声で「ニィ……」と鳴かれて、胸が苦しくなる。
シートベルトをしないまま、足の上に載せた紙袋をギュッと握りしめて、芽生は窓外を流れていく景色を険しい顔でじっと見つめた。
自分ひとりならある程度スピードが緩んだ隙をついて車から飛び降りるとか出来るかも知れないけれど、弱っている殿様のことを考えると、なかなか決心がつかない。
「芽生ちゃん、変なことは考えない方がいいよ?」
前方を見詰めたままの細波からそう声を掛けられて、芽生は顔に企みが出ていたのかとドキッとする。
「シートベルトをしようとしないのは逃げようとか考えてるからでしょう?」
ちらりと胸元へ視線を投げかけられて、芽生は「わ、忘れていただけですっ」と慌ててシートベルトをした。
下手に細波を刺激して藪蛇になったらまずいし、車が停まるのを待って行動を起こした方がいいと思い直す。
(タクシー、呼べばよかった!)
今更のようにそのことが頭の中をぐるぐるする。動物病院を調べたとき、タクシーのことも頭に思い浮かびはしたのだ。だけど最寄りの動物病院が思いのほか近くにあったから、タクシーの配車手配をして待つ時間が惜しく感じられてしまった。
動いていないと不安だったというのもある。
芽生だって、まさか出てすぐ細波に待ち伏せされているなんて思わなかったのだ。
「そういえば細波さん、どうしてあそこにいたんですか?」
芽生がポツンとつぶやいたら、細波が「前に偶然ワオンモールで出会ったでしょう? あの時にね」と芽生の鞄に一瞬だけ意味深な視線を投げかけてくる。
キョトンとする芽生に、細波がさらに続けるのだ。
千崎も『YURIKA』の火事騒動へ駆り出されていて不在な状態での出火騒ぎとなると、事務所の方は大変なはずだ。あの事務所は部屋住みの者たちが寝起きするスペースも取ってあるから、そこを焼け出されたとあっては、その混乱ぶりは想像に難くない。
京介はすぐさま千崎に電話を掛けると、「すまん。事務所からも火が出た。俺はそっちに行くから……YURIKAの方はお前に頼んで構わねぇか?」と問い掛けた。
電話口から千崎が息を呑む気配がして、すぐさま『分かりました。こちらは私にお任せください』という声が返ってくる。
京介は苦々しい思いを噛み殺しながら、ハンドルを握る石矢に行き先変更を告げた。
よりによって、自分が不在にしている日に立て続けにこんなことが起こったのは、偶然だろうか?
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先ほど細波に酷い扱いをされたけれど、子猫は無事だろうか? そっと上から覗き込むと、箱が横倒しになっていて、慌ててそれを元に戻したら、小さな声で「ニィ……」と鳴かれて、胸が苦しくなる。
シートベルトをしないまま、足の上に載せた紙袋をギュッと握りしめて、芽生は窓外を流れていく景色を険しい顔でじっと見つめた。
自分ひとりならある程度スピードが緩んだ隙をついて車から飛び降りるとか出来るかも知れないけれど、弱っている殿様のことを考えると、なかなか決心がつかない。
「芽生ちゃん、変なことは考えない方がいいよ?」
前方を見詰めたままの細波からそう声を掛けられて、芽生は顔に企みが出ていたのかとドキッとする。
「シートベルトをしようとしないのは逃げようとか考えてるからでしょう?」
ちらりと胸元へ視線を投げかけられて、芽生は「わ、忘れていただけですっ」と慌ててシートベルトをした。
下手に細波を刺激して藪蛇になったらまずいし、車が停まるのを待って行動を起こした方がいいと思い直す。
(タクシー、呼べばよかった!)
今更のようにそのことが頭の中をぐるぐるする。動物病院を調べたとき、タクシーのことも頭に思い浮かびはしたのだ。だけど最寄りの動物病院が思いのほか近くにあったから、タクシーの配車手配をして待つ時間が惜しく感じられてしまった。
動いていないと不安だったというのもある。
芽生だって、まさか出てすぐ細波に待ち伏せされているなんて思わなかったのだ。
「そういえば細波さん、どうしてあそこにいたんですか?」
芽生がポツンとつぶやいたら、細波が「前に偶然ワオンモールで出会ったでしょう? あの時にね」と芽生の鞄に一瞬だけ意味深な視線を投げかけてくる。
キョトンとする芽生に、細波がさらに続けるのだ。