組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
芽生はギュッと唇を引き結ぶと、京介が言ったように彼の背後に隠れてボロボロの細波を見ないことにした。
それはとても卑怯だと芽生自身分かっているけれど、今自分がどうこう動いたところで、きっと京介も佐山も聞く耳は持ってくれないだろう。
芽生の前では滅多なことでは煙草に火をつけない京介が、紫煙をくゆらせているのも芽生にこれ以上踏み込むなと言われているように感じられたから。
(目の前で、京ちゃんやブンブンが細波さんにこれ以上危害を加えるようなら止める!)
そう心に決めて、芽生はギュッとこぶしを握り締めた。
***
「細波さんよ、コレが何だか分かるよなぁ?」
京介は血が付いて薄汚れた【婚姻届】を細波の眼前に突き付ける。
細波が胡乱げな表情でこちらを見上げてくるのを、佐山が横から「返事」と低めた声で脅す。
佐山が細波へ声を掛けた途端、芽生が自分の背後で今にも暴力沙汰になるんじゃないかと身構えたのが分かった京介である。
細波は口を塞がれていて喋れないが、意思表示ぐらいは出来るはずだ。
すぐそばに芽生がいなければ頬を二~三発張るぐらいしたかもしれないが、一応に佐山も暗黙の了解でそれは我慢してくれているらしい。
ふぅーとわざとらしく細波に煙草の煙を吐き掛けながら、
「口、きけなくても頷くぐらいは出来るだろぉーが」
先ほどまでとは打って変わったさま。京介が押し殺したように声音を低めて、手にしたぐしゃぐしゃの婚姻届で細波の頬を二、三度叩いたら、細波がビクッと身体を跳ねさせてコクコクと首肯した。
さっきまで光を宿していないように見えた瞳が、恐怖からかしっかりと意志の光を宿しているのを確認した京介は、わざとらしく吐息交じり、煙草の煙を吐き出してみせる。
「テメェがうちの芽生を脅して書かせた【婚姻届】だよなぁ?」
京介の言葉に細波が涙目になりながらそれを認めるのを見下ろしながら、京介は怯えた目で自分を見上げてくる細波の眼前で、それをビリッと破り捨てる。
途端、細波が一瞬だけ前に身を乗り出そうとしたのを視線だけで制すると、京介は「芽生」と自分の背後へ呼び掛けた。
***
こんな時に不謹慎だけれど、京介に当たり前みたいに〝《《うちの》》芽生〟と言われたことにキュンと胸を高鳴らせてから、でも、もしかしたらそれは〝うちの《《娘》》〟みたいな意味かも知れないと思い直して一喜一憂の芽生である。
そんな折、突然京介に呼び掛けられて、芽生はビクッと身体を跳ねさせた。
それを細波に対する怯えと取られたのだろうか。京介に「大丈夫だ」と労られながらそっと手を引かれて前へ出たら、車の後部シートの細波と目が合った。
途端、まるで芽生に救いを求めるみたいに「うー、うー」とくぐもった声を上げながらこちらを見上げてきた細波に、芽生はどうしたらいいのか分からなくなる。
だが京介が、細波がそれ以上のアクションを起こす前に、芽生が所在なく手にしたままだった婚姻届を抜き取ってしまうから、芽生はそちらに意識を引っ張られた。
「あっ……」
さっきはまるでそれを一緒に出してくれそうな口ぶりだった京介だけど、思い起こしてみれば芽生の意向を確認しただけで、京介自身が芽生と婚姻を結んでもいいと言ってくれたわけでも……もっと言えばそれに匹敵するような甘い言葉を投げかけてくれたわけでもない。
また、京介に〝保管〟されてしまって……それこそ七年後――芽生が三十路を迎えるその日までお蔵入りになるのでは?
そう思い至ると、もともとそういう約束で京介に婚姻届を預けていたくせに、芽生はなんだかすごく悲しくなってしまう。
だが、京介は芽生の不安な想いとは裏腹。芽生の手から取り返した婚姻届を細波の前で広げて見せると、凶悪な顔で言うのだ。
「細波さんにゃー悪ーがな、芽生は俺のなんだわ」
京介の言葉に芽生が「えっ?」とつぶやくより早く、京介にグイッと引き寄せられて、芽生は自分の唇がほんの一瞬だけ京介の唇と触れ合ったのを感じた。
鼻先を掠めた煙草の香りに、芽生は京介との急接近を実感させられて心臓がバクバクする。
「なぁ芽生。お前は俺の嫁さんになるって約束してくれたよなぁ?」
京介の問い掛けに、芽生が突然のキス(?)にどぎまぎしながらもなんとかコクコク頷いたら、京介が芽生を腕の中へギュッと抱きしめた。
「俺も身内にすんならお前しかいねぇと思ってんだわ。――ま、そういうことだから、細波さん。こいつ娶んのは諦めてくれや」
それはとても卑怯だと芽生自身分かっているけれど、今自分がどうこう動いたところで、きっと京介も佐山も聞く耳は持ってくれないだろう。
芽生の前では滅多なことでは煙草に火をつけない京介が、紫煙をくゆらせているのも芽生にこれ以上踏み込むなと言われているように感じられたから。
(目の前で、京ちゃんやブンブンが細波さんにこれ以上危害を加えるようなら止める!)
そう心に決めて、芽生はギュッとこぶしを握り締めた。
***
「細波さんよ、コレが何だか分かるよなぁ?」
京介は血が付いて薄汚れた【婚姻届】を細波の眼前に突き付ける。
細波が胡乱げな表情でこちらを見上げてくるのを、佐山が横から「返事」と低めた声で脅す。
佐山が細波へ声を掛けた途端、芽生が自分の背後で今にも暴力沙汰になるんじゃないかと身構えたのが分かった京介である。
細波は口を塞がれていて喋れないが、意思表示ぐらいは出来るはずだ。
すぐそばに芽生がいなければ頬を二~三発張るぐらいしたかもしれないが、一応に佐山も暗黙の了解でそれは我慢してくれているらしい。
ふぅーとわざとらしく細波に煙草の煙を吐き掛けながら、
「口、きけなくても頷くぐらいは出来るだろぉーが」
先ほどまでとは打って変わったさま。京介が押し殺したように声音を低めて、手にしたぐしゃぐしゃの婚姻届で細波の頬を二、三度叩いたら、細波がビクッと身体を跳ねさせてコクコクと首肯した。
さっきまで光を宿していないように見えた瞳が、恐怖からかしっかりと意志の光を宿しているのを確認した京介は、わざとらしく吐息交じり、煙草の煙を吐き出してみせる。
「テメェがうちの芽生を脅して書かせた【婚姻届】だよなぁ?」
京介の言葉に細波が涙目になりながらそれを認めるのを見下ろしながら、京介は怯えた目で自分を見上げてくる細波の眼前で、それをビリッと破り捨てる。
途端、細波が一瞬だけ前に身を乗り出そうとしたのを視線だけで制すると、京介は「芽生」と自分の背後へ呼び掛けた。
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こんな時に不謹慎だけれど、京介に当たり前みたいに〝《《うちの》》芽生〟と言われたことにキュンと胸を高鳴らせてから、でも、もしかしたらそれは〝うちの《《娘》》〟みたいな意味かも知れないと思い直して一喜一憂の芽生である。
そんな折、突然京介に呼び掛けられて、芽生はビクッと身体を跳ねさせた。
それを細波に対する怯えと取られたのだろうか。京介に「大丈夫だ」と労られながらそっと手を引かれて前へ出たら、車の後部シートの細波と目が合った。
途端、まるで芽生に救いを求めるみたいに「うー、うー」とくぐもった声を上げながらこちらを見上げてきた細波に、芽生はどうしたらいいのか分からなくなる。
だが京介が、細波がそれ以上のアクションを起こす前に、芽生が所在なく手にしたままだった婚姻届を抜き取ってしまうから、芽生はそちらに意識を引っ張られた。
「あっ……」
さっきはまるでそれを一緒に出してくれそうな口ぶりだった京介だけど、思い起こしてみれば芽生の意向を確認しただけで、京介自身が芽生と婚姻を結んでもいいと言ってくれたわけでも……もっと言えばそれに匹敵するような甘い言葉を投げかけてくれたわけでもない。
また、京介に〝保管〟されてしまって……それこそ七年後――芽生が三十路を迎えるその日までお蔵入りになるのでは?
そう思い至ると、もともとそういう約束で京介に婚姻届を預けていたくせに、芽生はなんだかすごく悲しくなってしまう。
だが、京介は芽生の不安な想いとは裏腹。芽生の手から取り返した婚姻届を細波の前で広げて見せると、凶悪な顔で言うのだ。
「細波さんにゃー悪ーがな、芽生は俺のなんだわ」
京介の言葉に芽生が「えっ?」とつぶやくより早く、京介にグイッと引き寄せられて、芽生は自分の唇がほんの一瞬だけ京介の唇と触れ合ったのを感じた。
鼻先を掠めた煙草の香りに、芽生は京介との急接近を実感させられて心臓がバクバクする。
「なぁ芽生。お前は俺の嫁さんになるって約束してくれたよなぁ?」
京介の問い掛けに、芽生が突然のキス(?)にどぎまぎしながらもなんとかコクコク頷いたら、京介が芽生を腕の中へギュッと抱きしめた。
「俺も身内にすんならお前しかいねぇと思ってんだわ。――ま、そういうことだから、細波さん。こいつ娶んのは諦めてくれや」