組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
24.陽だまり
京介、長谷川社長とともに約五年ぶり。懐かしい施設内へ入った芽生は、在所中は滅多に入室することのなかった施設長室にいた。
慣れた風な二人とは裏腹。芽生は緊張しまくりだ。
「……比田先生、お久しぶりです」
京介や長谷川社長に倣ってぺこりと頭を下げながら挨拶した芽生に、八十歳近いと思える老齢の女性が「芽生ちゃん《《とは》》本当に久しぶりね」と言ってふふっと笑った。
私とは? と小首を傾げた芽生に、長谷川社長が、「私と相良は神田さんがここを巣立ってからも月に一度は来てるんだ」と説明してくれる。
「月一?」
芽生がキョトンとしたら、比田が「ほら。芽生ちゃんがいた時にも二人、よく連れ立って来てくれてたでしょう? 実はね、《《京くんが》》もう何年もずっと……うちに支援してくれてるのよ」と微笑んだ。
「ちょっ、比田《《先生》》っ!」
途端、京介が慌てたように立ち上がって、〝比田さん〟ではなく〝比田先生〟と彼女を呼ぶ。それに応じるように、比田が「あらっ、そういえばこのお話は内緒だったわねぇ。ごめんなさいね、京くん。先生ももう年だからつい……」と、まるで《《確信犯のように》》クスクス笑う。
比田が京介のことを芽生同様あだ名で呼んだことにも、京介が比田のことを〝先生〟呼びしたことも、何となく違和感を覚えてしまった芽生だ。
そんな芽生を置き去りに、話は進んでいく。
「でも京くん。芽生ちゃんを連れて婚姻届を持ってここへ来たんですもの。隠し事はダメよ?」
机上に、コーヒーカップなどとともに並べられた書類にちらりと視線を投げかけて、比田が「ね? 長谷川さんもそう思うでしょう?」と長谷川社長に視線を流す。
「そうですね」
それに対して長谷川社長までが比田の味方をして、京介は苦虫を嚙み潰したみたいに不機嫌な顔になった。
「なぁ相良、いい加減諦めろって。神田さんにくらいはホントのことを言っても罰は当たらないと思うぞ? というより――」
そこまで言って芽生に視線を移した長谷川社長が、「私も神田さんに隠し事をしたまま証人欄を埋めるのは何だか落ち着かないからね」と肩をすくめてみせる。
「ねぇ京ちゃん、どういうことなの? 私にも分かるように話して?」
どうやらここにいる自分以外、事情を知っているらしい。それを、なんだか仲間外れにされたみたいに感じた芽生は、京介を問い詰めたくなった。
自分のすぐ隣へ座る京介の太ももにそっと触れて問い掛ければ、京介が吐息交じり。「簡単な話だ。俺みてぇのが出資してるって知られたら、色々と都合が悪い。そんだけのことだ」とぶっきら棒に吐き捨てる。
自分がここの運営資金を出資していたことは認めた素振りの京介なのだが、芽生にはイマイチ理解が追い付かない。
「京ちゃんが出資者だったら……何でダメなの?」
思ったままを口の端に乗せれば、盛大に吐息を落とされてしまう。
「ヤクザ者が関わってるとか……ここにとって世間体が良くねぇだろぉーがよ」
「……そう相良が言うからね、私が一枚噛んでワンクッション置いていたってわけ」
要するに、京介が直接関わるのは体面が良くないから、京介からの支援金を長谷川社長からの寄付という形で取り繕っていたということだろうか。
「京ちゃんからのお金を長谷川社長からって名目で寄付してた?」
芽生がそうつぶやいたら、そっぽを向いたままの京介に代わって、長谷川社長が頷いてくれる。
「実際問題、京くんからの寄付金がなかったら、うちはとっくに立ち行かなくなっていたの……」
小さな児童養護施設だ。
行政からの支援だけでは上手く回らなくなっていたのだと比田が付け加えて、
「……ほんの束の間だったが《《俺もここにゃぁ世話ンなったことがある》》からな。恩返しをしたまでだ」
それに応じるように京介が不機嫌そうにぼそりとつぶやいた。
「ホント、そういうトコ。お前は笑えるくらい素直じゃないよね」
途端、長谷川社長が京介を見てクスッと笑う。
慣れた風な二人とは裏腹。芽生は緊張しまくりだ。
「……比田先生、お久しぶりです」
京介や長谷川社長に倣ってぺこりと頭を下げながら挨拶した芽生に、八十歳近いと思える老齢の女性が「芽生ちゃん《《とは》》本当に久しぶりね」と言ってふふっと笑った。
私とは? と小首を傾げた芽生に、長谷川社長が、「私と相良は神田さんがここを巣立ってからも月に一度は来てるんだ」と説明してくれる。
「月一?」
芽生がキョトンとしたら、比田が「ほら。芽生ちゃんがいた時にも二人、よく連れ立って来てくれてたでしょう? 実はね、《《京くんが》》もう何年もずっと……うちに支援してくれてるのよ」と微笑んだ。
「ちょっ、比田《《先生》》っ!」
途端、京介が慌てたように立ち上がって、〝比田さん〟ではなく〝比田先生〟と彼女を呼ぶ。それに応じるように、比田が「あらっ、そういえばこのお話は内緒だったわねぇ。ごめんなさいね、京くん。先生ももう年だからつい……」と、まるで《《確信犯のように》》クスクス笑う。
比田が京介のことを芽生同様あだ名で呼んだことにも、京介が比田のことを〝先生〟呼びしたことも、何となく違和感を覚えてしまった芽生だ。
そんな芽生を置き去りに、話は進んでいく。
「でも京くん。芽生ちゃんを連れて婚姻届を持ってここへ来たんですもの。隠し事はダメよ?」
机上に、コーヒーカップなどとともに並べられた書類にちらりと視線を投げかけて、比田が「ね? 長谷川さんもそう思うでしょう?」と長谷川社長に視線を流す。
「そうですね」
それに対して長谷川社長までが比田の味方をして、京介は苦虫を嚙み潰したみたいに不機嫌な顔になった。
「なぁ相良、いい加減諦めろって。神田さんにくらいはホントのことを言っても罰は当たらないと思うぞ? というより――」
そこまで言って芽生に視線を移した長谷川社長が、「私も神田さんに隠し事をしたまま証人欄を埋めるのは何だか落ち着かないからね」と肩をすくめてみせる。
「ねぇ京ちゃん、どういうことなの? 私にも分かるように話して?」
どうやらここにいる自分以外、事情を知っているらしい。それを、なんだか仲間外れにされたみたいに感じた芽生は、京介を問い詰めたくなった。
自分のすぐ隣へ座る京介の太ももにそっと触れて問い掛ければ、京介が吐息交じり。「簡単な話だ。俺みてぇのが出資してるって知られたら、色々と都合が悪い。そんだけのことだ」とぶっきら棒に吐き捨てる。
自分がここの運営資金を出資していたことは認めた素振りの京介なのだが、芽生にはイマイチ理解が追い付かない。
「京ちゃんが出資者だったら……何でダメなの?」
思ったままを口の端に乗せれば、盛大に吐息を落とされてしまう。
「ヤクザ者が関わってるとか……ここにとって世間体が良くねぇだろぉーがよ」
「……そう相良が言うからね、私が一枚噛んでワンクッション置いていたってわけ」
要するに、京介が直接関わるのは体面が良くないから、京介からの支援金を長谷川社長からの寄付という形で取り繕っていたということだろうか。
「京ちゃんからのお金を長谷川社長からって名目で寄付してた?」
芽生がそうつぶやいたら、そっぽを向いたままの京介に代わって、長谷川社長が頷いてくれる。
「実際問題、京くんからの寄付金がなかったら、うちはとっくに立ち行かなくなっていたの……」
小さな児童養護施設だ。
行政からの支援だけでは上手く回らなくなっていたのだと比田が付け加えて、
「……ほんの束の間だったが《《俺もここにゃぁ世話ンなったことがある》》からな。恩返しをしたまでだ」
それに応じるように京介が不機嫌そうにぼそりとつぶやいた。
「ホント、そういうトコ。お前は笑えるくらい素直じゃないよね」
途端、長谷川社長が京介を見てクスッと笑う。