組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
だが、別に診断書などを提出するわけではないため、更新などの際、「過去5年以内にてんかんの発作を起こしたことがあるか」や、「過去に意識を失ったり、突然倒れたりしたことがあるか」という質問票に、本人が「いいえ」と虚偽申告してしまえば、問題なく免許の更新が出来てしまうようだった。
恐らく安西もそのクチだったのだろう。
その時には別に安西の不正について言及するつもりなんてなかった鳴海だったのだが、今回沙奈と話していてふとそんな彼のことを思い出したのだ。
安西とはほんの束の間入院患者と看護師として接したことがあるだけ。
足もつきにくいはず――。
「あなたの病気、雇い先にバレたら仕事を失いますよね?」
安西を見つけ出してそう脅して……黙っている代わりに奈央子を轢いて欲しいと《《お願い》》したら、面白いぐらい安西が動揺した。それを見て、鳴海は(これは使えるな)と思ったのだ。
可愛い息子鳴矢のため、邪魔な田畑の跡取り息子・《《栄一郎を亡き者にした》》今となっては、唯一鳴矢の障害となり得る存在は、沙奈が身ごもっているという栄一郎の子だけ。
最初は腹の中へいる間に沙奈ごと葬り去ってしまおうかとも思っていたのだが、栄一郎との会話の中で沙奈の腹の子が女の子だと知って気持ちが変わった。
もしもの時、鳴矢のさかえグループでの跡取りとしての地位を強固なものとするため、田畑の血を引く赤ん坊を鳴矢の伴侶として掌握しておくのはとても名案に思えたのだ。
そこからは沙奈を脅すための材料集めに奔走して、奈央子の生活パターンを調べ上げた。奈央子がスーパーのパートタイマーの仕事をしているのを知った鳴海は、奈央子が遅番シフトの際は、帰りが夜になることを突き止めた。
田畑家から、母子ふたりがつつましやかに暮らしていくには十分すぎるほどの手切れ金を受け取っていたはずなのに、ホント貧乏くさい女ね! と思ったのも鮮明に覚えている。もしも自分が奈央子の立場なら、仕事なんてさっさと辞めるのに、と。
締めのシフト勤務の場合、奈央子は二十一時半に店を出て、家路を急ぐあまりだろうか。ちょいちょい車通りの少ない横断歩道を、赤信号でも渡ってしまう。
「ほら。夜道で信号無視の相手を《《誤って》》轢いてしまっても、事故で処理されるし情状酌量だってされるはずよ?」
そう唆したら、思い通りに安西が動いてくれたのだと鳴海が自白した。
奈央子が事故に遭ったという知らせを受けたあとの沙奈を篭絡するのはとても簡単だった。
「ほら、貴女が私の言うことを聞かないからお母さんが酷い目に遭っちゃったじゃない。でもよかったわね、一命は取り留めたって。けど……そうねぇ。意識は戻ってないみたいだし、《《そのまま呆気なく》》、なんてことになる場合もないとは言えないと思うの。――ね? 悪いことは言わないから、今度こそ私の言うことを聞きなさいな。私が看護師なのは知っているでしょう? 入院中のあなたのお母さんに近付いて、《《不運を装って何かしちゃう》》ことなんて造作もないことなのよ?」
鳴海の言葉に、沙奈は一切の抵抗を辞めたのだという。
***
それが、沙奈が何の証拠も残さずに、秘密裏に芽生を生んだ真相らしかった。
生んだばかりの我が子を鳴海に奪われ、相談できる母親も意識がない。沙奈が栄一郎の元を目指したのも、何となく頷ける気がした京介だ。
おそらく車の免許を持たない沙奈が、タクシーにも乗らずに山奥まで行けたのも、鳴海が何らかの関与をしていたんだろう。
鳴海に弱みを握られていた安西にしても、正常な判断が出来なくなっていたとしか思えない。人身事故なんて起こせば、それだけで契約を切られかねないと思い至れない程度には切羽詰まっていたということだ。
開き直ったように過去の悪事をまるで《《武勇伝》》ででもあるかのように興奮気味にまくし立てる鳴海を見下ろして、京介は思わず息を呑んでいた。
恐らく安西もそのクチだったのだろう。
その時には別に安西の不正について言及するつもりなんてなかった鳴海だったのだが、今回沙奈と話していてふとそんな彼のことを思い出したのだ。
安西とはほんの束の間入院患者と看護師として接したことがあるだけ。
足もつきにくいはず――。
「あなたの病気、雇い先にバレたら仕事を失いますよね?」
安西を見つけ出してそう脅して……黙っている代わりに奈央子を轢いて欲しいと《《お願い》》したら、面白いぐらい安西が動揺した。それを見て、鳴海は(これは使えるな)と思ったのだ。
可愛い息子鳴矢のため、邪魔な田畑の跡取り息子・《《栄一郎を亡き者にした》》今となっては、唯一鳴矢の障害となり得る存在は、沙奈が身ごもっているという栄一郎の子だけ。
最初は腹の中へいる間に沙奈ごと葬り去ってしまおうかとも思っていたのだが、栄一郎との会話の中で沙奈の腹の子が女の子だと知って気持ちが変わった。
もしもの時、鳴矢のさかえグループでの跡取りとしての地位を強固なものとするため、田畑の血を引く赤ん坊を鳴矢の伴侶として掌握しておくのはとても名案に思えたのだ。
そこからは沙奈を脅すための材料集めに奔走して、奈央子の生活パターンを調べ上げた。奈央子がスーパーのパートタイマーの仕事をしているのを知った鳴海は、奈央子が遅番シフトの際は、帰りが夜になることを突き止めた。
田畑家から、母子ふたりがつつましやかに暮らしていくには十分すぎるほどの手切れ金を受け取っていたはずなのに、ホント貧乏くさい女ね! と思ったのも鮮明に覚えている。もしも自分が奈央子の立場なら、仕事なんてさっさと辞めるのに、と。
締めのシフト勤務の場合、奈央子は二十一時半に店を出て、家路を急ぐあまりだろうか。ちょいちょい車通りの少ない横断歩道を、赤信号でも渡ってしまう。
「ほら。夜道で信号無視の相手を《《誤って》》轢いてしまっても、事故で処理されるし情状酌量だってされるはずよ?」
そう唆したら、思い通りに安西が動いてくれたのだと鳴海が自白した。
奈央子が事故に遭ったという知らせを受けたあとの沙奈を篭絡するのはとても簡単だった。
「ほら、貴女が私の言うことを聞かないからお母さんが酷い目に遭っちゃったじゃない。でもよかったわね、一命は取り留めたって。けど……そうねぇ。意識は戻ってないみたいだし、《《そのまま呆気なく》》、なんてことになる場合もないとは言えないと思うの。――ね? 悪いことは言わないから、今度こそ私の言うことを聞きなさいな。私が看護師なのは知っているでしょう? 入院中のあなたのお母さんに近付いて、《《不運を装って何かしちゃう》》ことなんて造作もないことなのよ?」
鳴海の言葉に、沙奈は一切の抵抗を辞めたのだという。
***
それが、沙奈が何の証拠も残さずに、秘密裏に芽生を生んだ真相らしかった。
生んだばかりの我が子を鳴海に奪われ、相談できる母親も意識がない。沙奈が栄一郎の元を目指したのも、何となく頷ける気がした京介だ。
おそらく車の免許を持たない沙奈が、タクシーにも乗らずに山奥まで行けたのも、鳴海が何らかの関与をしていたんだろう。
鳴海に弱みを握られていた安西にしても、正常な判断が出来なくなっていたとしか思えない。人身事故なんて起こせば、それだけで契約を切られかねないと思い至れない程度には切羽詰まっていたということだ。
開き直ったように過去の悪事をまるで《《武勇伝》》ででもあるかのように興奮気味にまくし立てる鳴海を見下ろして、京介は思わず息を呑んでいた。