組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
「けど……罪もねぇ人間を私利私欲のため、何人も手に掛けたお前の母親は俺たち外道以下……。まさに鬼畜生だな?」
京介の言葉に、先程鳴海が――まさか鳴矢が聞いているだなんて思わずに――吐露した悪行の数々が聞こえていたんだろう。鳴矢が言葉に詰まったのが分かった。
京介が鳴海の目隠しを取らなかったのは、鳴矢がいることで変なストッパーが掛かるのを防ぎたかったからだったのだが、ビンゴだったらしい。
あんな女でも、鳴矢の前では一応にいい母親であろうと努力していたんだろう。
放火や芽生誘拐への関与に関しては息子に話せても、さすがに殺人やひき逃げの教唆までは告げていなかったらしい。
普通の感覚で考えればそれだけでも十分ありえないことを我が子に明かしているわけだが、まともな人間に育てられなかった鳴矢もまた、常識からはかけ離れた感性を持っていたようだ。
そもそも鳴矢は母親に言われるがまま、芽生を誑かすことも、また芽生に婚姻届を書かせるという目的遂行のため、何の罪もない猫の命を危険にさらすことも平然とした様子でこなしていた節がある。芽生の性格を熟知した上で、猫の命を盾に彼女を脅すことも厭わなかったようだ。
京介としてはそんなことをする人間に倫理観があるとは思えなかったのだが、そんな鳴矢でも母親が人殺しをしたというのは容易には受け入れられないらしい。なんとも不可解な話だ。
「け、けどっ、ママは……僕のために必要だと思ったから仕方なくそうしただけでっ! きっとやりたくてしたわけじゃないはずだ!」
「あ? そりゃぁ息子のためって免罪符がありゃー、何をしてもいいって意味か? だとすりゃぁ……」
京介の低めた声音に、不穏なものを感じたんだろう。鳴矢がおびえた顔をして口を閉ざした。
「俺が大事な女、傷付けられたって名目で何かやらかすのも、大義名分があるってことで、構わねぇよなぁ?」
京介がそう問いかけた途端、慌てたように「そっ、そんなことを言ったわけじゃないだろ!? 曲解するなよ!」と言い訳がましく鳴矢が喚き散らす。
京介はそんな鳴矢を黙殺すると、佐山へ視線を向けた。
「佐山、指示しといたモンの手配は出来てるか?」
「もちろんです」
京介の言葉に鳴矢が心底怯えたような顔をして、「なっ、何をするつもりだ! この反社ども!」と縛られたままの身体をジタバタさせる。
京介は「うるせぇよ」と鳴矢を一瞥してから、彼の上へわざと煙草の灰を降り注がせた。別に初っ端のように塊で落ちたわけではない。崩れた灰が降り注いだだけだから火傷なんてしないだろうに、鳴矢はまるで熱さを感じたみたいに身をよじった。
そんな鳴矢に軽く蹴りを入れて止めをさすと、京介は佐山が差し出した紙パックと、半ばからスパッと上下に切り分けられたペットボトルの飲み口側を受け取った。
「押さえろ」
周りに控える男たちへ京介が命令を下すと、「や、やめろ! 僕に触るな!」と藻掻く鳴矢をお構いなしにガッチリと拘束させる。
「なぁ細波さんよ、これ、何だか分かるか?」
京介が目の前でチャプチャプと水音を立てて揺する紙パックを見て、それが未開封なことを確認した鳴矢が「た、ただの牛乳、じゃないか。……だろ?」と縋るような視線で見つめてくる。
「ああ、《《今んトコ》》ただの牛乳だ。お前が猫に飲ませたのと一緒だな。だが――」
ククッと笑って牛乳を開封すると、京介は佐山に目配せする。
「なんの変哲もねぇ牛乳を飲ませたんじゃアンタ、腹下すとは限らねぇしな、ちぃーとばかり細工させてもらうわ」
言って、佐山が追加で差し出してきた薬のパッケージと思しき箱を受け取った。
京介の言葉に、先程鳴海が――まさか鳴矢が聞いているだなんて思わずに――吐露した悪行の数々が聞こえていたんだろう。鳴矢が言葉に詰まったのが分かった。
京介が鳴海の目隠しを取らなかったのは、鳴矢がいることで変なストッパーが掛かるのを防ぎたかったからだったのだが、ビンゴだったらしい。
あんな女でも、鳴矢の前では一応にいい母親であろうと努力していたんだろう。
放火や芽生誘拐への関与に関しては息子に話せても、さすがに殺人やひき逃げの教唆までは告げていなかったらしい。
普通の感覚で考えればそれだけでも十分ありえないことを我が子に明かしているわけだが、まともな人間に育てられなかった鳴矢もまた、常識からはかけ離れた感性を持っていたようだ。
そもそも鳴矢は母親に言われるがまま、芽生を誑かすことも、また芽生に婚姻届を書かせるという目的遂行のため、何の罪もない猫の命を危険にさらすことも平然とした様子でこなしていた節がある。芽生の性格を熟知した上で、猫の命を盾に彼女を脅すことも厭わなかったようだ。
京介としてはそんなことをする人間に倫理観があるとは思えなかったのだが、そんな鳴矢でも母親が人殺しをしたというのは容易には受け入れられないらしい。なんとも不可解な話だ。
「け、けどっ、ママは……僕のために必要だと思ったから仕方なくそうしただけでっ! きっとやりたくてしたわけじゃないはずだ!」
「あ? そりゃぁ息子のためって免罪符がありゃー、何をしてもいいって意味か? だとすりゃぁ……」
京介の低めた声音に、不穏なものを感じたんだろう。鳴矢がおびえた顔をして口を閉ざした。
「俺が大事な女、傷付けられたって名目で何かやらかすのも、大義名分があるってことで、構わねぇよなぁ?」
京介がそう問いかけた途端、慌てたように「そっ、そんなことを言ったわけじゃないだろ!? 曲解するなよ!」と言い訳がましく鳴矢が喚き散らす。
京介はそんな鳴矢を黙殺すると、佐山へ視線を向けた。
「佐山、指示しといたモンの手配は出来てるか?」
「もちろんです」
京介の言葉に鳴矢が心底怯えたような顔をして、「なっ、何をするつもりだ! この反社ども!」と縛られたままの身体をジタバタさせる。
京介は「うるせぇよ」と鳴矢を一瞥してから、彼の上へわざと煙草の灰を降り注がせた。別に初っ端のように塊で落ちたわけではない。崩れた灰が降り注いだだけだから火傷なんてしないだろうに、鳴矢はまるで熱さを感じたみたいに身をよじった。
そんな鳴矢に軽く蹴りを入れて止めをさすと、京介は佐山が差し出した紙パックと、半ばからスパッと上下に切り分けられたペットボトルの飲み口側を受け取った。
「押さえろ」
周りに控える男たちへ京介が命令を下すと、「や、やめろ! 僕に触るな!」と藻掻く鳴矢をお構いなしにガッチリと拘束させる。
「なぁ細波さんよ、これ、何だか分かるか?」
京介が目の前でチャプチャプと水音を立てて揺する紙パックを見て、それが未開封なことを確認した鳴矢が「た、ただの牛乳、じゃないか。……だろ?」と縋るような視線で見つめてくる。
「ああ、《《今んトコ》》ただの牛乳だ。お前が猫に飲ませたのと一緒だな。だが――」
ククッと笑って牛乳を開封すると、京介は佐山に目配せする。
「なんの変哲もねぇ牛乳を飲ませたんじゃアンタ、腹下すとは限らねぇしな、ちぃーとばかり細工させてもらうわ」
言って、佐山が追加で差し出してきた薬のパッケージと思しき箱を受け取った。