組長さんと年下彼女~今日から同棲始めます~
(あ、でも京ちゃん、今、特注って言った……? それって京ちゃんが私のため《《だけ》》に手配してくれた指輪ってことだよね? だとしたら、すっごくすっごく嬉しい!)
そんなアレコレを考えて、芽生がすぐさま肯定しなかったからだろう。京介がどこか決まり悪そうな顔をして「あー、やっぱ転用は嫌だよな? すまん。婚約指輪はちゃんと別のを手配するから……今のは忘れろ」とか言い出すから、芽生は慌ててフルフルと首を横に振った。
「ヤダ! 忘れない! 私、京ちゃんが私のために特注してくれた指輪、婚約指輪にしたい!」
どんなデザインの指輪かは分からない。
でも、京介が自分のためを思って注文してくれた。それだけで、芽生にとってその指輪は特別な価値を持つ、唯一無二になる。
芽生の言葉に京介が「分かった」と言ってくれて、芽生は心の底からホッとした。
京介が女性店員に引換証のようなものを渡すと、彼女は「相良さま、無事仕上がっております。少々お待ちくださいませ」と恭しく一礼する。
芽生が京介のすぐ横。奥の方へ入っていく女性の後ろ姿を眺めていたら、京介がボソリと「その、俺が勝手に選んだモンだし……その、気に入らなかったらそう言ってくれて全然構わねえから」とつぶやいた。
その言い方がなんだか芽生の反応を恐れているように見えて、芽生は京介には申し訳ないけれど、そんな彼のことを可愛い! と思ってしまった。
京介は基本余裕綽々な態度を貫く大人の男だ。だけど、時折こんな風に自信なさげにすることがあるのだと知って、芽生は何だかすごく嬉しくなった。もしも、それが自分だけに見せられるものだとしたら、これほど幸せなことはない。
「京ちゃんが選んでくれたの、私が気に入らないわけないじゃない!」
ギュッとそんな京介の手を握って下から彼の顔を見上げたら、すぐさまそっぽを向かれて「バーカ」と吐き捨てられる。
(なんて素直じゃないの!)
このところのアレコレで、京介は照れさせるとそういう可愛くない態度を取ることを頭では理解しているつもりの芽生だ。けれど、たまには目を見て『気に入ってくれたら俺も嬉しいよ』とか素直に言ってくれてもいいのに! と思ってしまったのは許して欲しい。
***
「こちらでございます」
ややして、奥から先ほどの女性店員が現れて、ショーケースの上に真っ白なリングケースが置かれた。
芽生が恐る恐る「開けていい?」と聞くと、京介がぶっきら棒に「おう」と応える。
芽生が許可を求めるみたいに店員を見つめたら、「どうぞ」と言うように小さく頷かれて、芽生はやっとのことリングケースを手に取って、ふたを開けた。
「……っ!」
ふわふわのリングクッションに挟まれた指輪を見た芽生は、思わず言葉を失くしてケースの中をじっと見つめ続けた――。
「これ……」
芽生が震える声でつぶやいたら、店員が「相良さまのご要望でデザインさせていただきました、チューリップモチーフの指輪でございます」と説明をしてくれる。
咲きかけの、一輪のチューリップをモチーフにした、繊細で可憐なデザインの指輪。
どこか温もりを感じさせられる花蕾は、ローズゴールドだろう。その花弁に、小さなブルーダイヤが朝露のように添えられ、葉と茎を模したプラチナのリングには、淡く愛らしいピンクダイヤが三石。
京介は婚約指輪のつもりで用意したものではないと言っていたけれど、芽生には京介からの〝永遠の愛〟を象徴した、優しさと気品を兼ね備えた完璧なデザインに見えた。
だって――。
「京ちゃん、これ……」
「まぁ、……あれだ。チューリップは……その、俺とお前の思い出の花……だからな」
最初はたまたまだったかも知れない。でも、何度も何度も意図して渡すうち、ピンク色のチューリップは芽生と京介にとって掛け替えのない花になったのだ。
「ピンク色のチューリップの花言葉は……諸説ありますが【誠実な愛】だそうです。大切な方にプレゼントするのに、これほどぴったりのデザインはないと思います」
店員の言葉に、芽生は涙目でコクコクと頷いた。
***
ジュエリーショップを出てすぐ、芽生《めい》が「京ちゃん、私、中庭に行きたい」とねだるから、京介は「外は寒いぞ?」と眉根を寄せた。
このワオンモールはカタカナの〝ロ〟のように建物が配置されていて、真ん中が街路樹とベンチ、それから噴水の配された憩いの場になっている。
「ちょっとだけだから……」
京介としては建物内にいる方が快適だぞ? と言いたいのだが、うっすらと瞳に涙を浮かべたまま、芽生が京介の手をギュッと握ってくるから、ついいつもの癖。「すぐ戻るからな?」と念押しして芽生とともに中庭へ出た。
そんなアレコレを考えて、芽生がすぐさま肯定しなかったからだろう。京介がどこか決まり悪そうな顔をして「あー、やっぱ転用は嫌だよな? すまん。婚約指輪はちゃんと別のを手配するから……今のは忘れろ」とか言い出すから、芽生は慌ててフルフルと首を横に振った。
「ヤダ! 忘れない! 私、京ちゃんが私のために特注してくれた指輪、婚約指輪にしたい!」
どんなデザインの指輪かは分からない。
でも、京介が自分のためを思って注文してくれた。それだけで、芽生にとってその指輪は特別な価値を持つ、唯一無二になる。
芽生の言葉に京介が「分かった」と言ってくれて、芽生は心の底からホッとした。
京介が女性店員に引換証のようなものを渡すと、彼女は「相良さま、無事仕上がっております。少々お待ちくださいませ」と恭しく一礼する。
芽生が京介のすぐ横。奥の方へ入っていく女性の後ろ姿を眺めていたら、京介がボソリと「その、俺が勝手に選んだモンだし……その、気に入らなかったらそう言ってくれて全然構わねえから」とつぶやいた。
その言い方がなんだか芽生の反応を恐れているように見えて、芽生は京介には申し訳ないけれど、そんな彼のことを可愛い! と思ってしまった。
京介は基本余裕綽々な態度を貫く大人の男だ。だけど、時折こんな風に自信なさげにすることがあるのだと知って、芽生は何だかすごく嬉しくなった。もしも、それが自分だけに見せられるものだとしたら、これほど幸せなことはない。
「京ちゃんが選んでくれたの、私が気に入らないわけないじゃない!」
ギュッとそんな京介の手を握って下から彼の顔を見上げたら、すぐさまそっぽを向かれて「バーカ」と吐き捨てられる。
(なんて素直じゃないの!)
このところのアレコレで、京介は照れさせるとそういう可愛くない態度を取ることを頭では理解しているつもりの芽生だ。けれど、たまには目を見て『気に入ってくれたら俺も嬉しいよ』とか素直に言ってくれてもいいのに! と思ってしまったのは許して欲しい。
***
「こちらでございます」
ややして、奥から先ほどの女性店員が現れて、ショーケースの上に真っ白なリングケースが置かれた。
芽生が恐る恐る「開けていい?」と聞くと、京介がぶっきら棒に「おう」と応える。
芽生が許可を求めるみたいに店員を見つめたら、「どうぞ」と言うように小さく頷かれて、芽生はやっとのことリングケースを手に取って、ふたを開けた。
「……っ!」
ふわふわのリングクッションに挟まれた指輪を見た芽生は、思わず言葉を失くしてケースの中をじっと見つめ続けた――。
「これ……」
芽生が震える声でつぶやいたら、店員が「相良さまのご要望でデザインさせていただきました、チューリップモチーフの指輪でございます」と説明をしてくれる。
咲きかけの、一輪のチューリップをモチーフにした、繊細で可憐なデザインの指輪。
どこか温もりを感じさせられる花蕾は、ローズゴールドだろう。その花弁に、小さなブルーダイヤが朝露のように添えられ、葉と茎を模したプラチナのリングには、淡く愛らしいピンクダイヤが三石。
京介は婚約指輪のつもりで用意したものではないと言っていたけれど、芽生には京介からの〝永遠の愛〟を象徴した、優しさと気品を兼ね備えた完璧なデザインに見えた。
だって――。
「京ちゃん、これ……」
「まぁ、……あれだ。チューリップは……その、俺とお前の思い出の花……だからな」
最初はたまたまだったかも知れない。でも、何度も何度も意図して渡すうち、ピンク色のチューリップは芽生と京介にとって掛け替えのない花になったのだ。
「ピンク色のチューリップの花言葉は……諸説ありますが【誠実な愛】だそうです。大切な方にプレゼントするのに、これほどぴったりのデザインはないと思います」
店員の言葉に、芽生は涙目でコクコクと頷いた。
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ジュエリーショップを出てすぐ、芽生《めい》が「京ちゃん、私、中庭に行きたい」とねだるから、京介は「外は寒いぞ?」と眉根を寄せた。
このワオンモールはカタカナの〝ロ〟のように建物が配置されていて、真ん中が街路樹とベンチ、それから噴水の配された憩いの場になっている。
「ちょっとだけだから……」
京介としては建物内にいる方が快適だぞ? と言いたいのだが、うっすらと瞳に涙を浮かべたまま、芽生が京介の手をギュッと握ってくるから、ついいつもの癖。「すぐ戻るからな?」と念押しして芽生とともに中庭へ出た。