むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

精霊たちに見守られて



「キャーセレン様素敵ぃぃいいっ!!」
 アイリスの黄色い声が飛ぶ。

 シリウスとの朝食を終えてすぐアイリスに拉致られた私は、なぜか純白のドレスに着替えさせられ、髪を綺麗に結い上げられ、飾り付けられていた。

 純白のドレスにグローブ。
 長いベールに輝くティアラ。
 これはまるで──。

 そこまで考えて、コンコンコン、と小さく扉が叩かれた。

「はーい良いですよー」
 アイリスが扉に向かってそう答えると、ゆっくりと扉が開き、騎士の正装に身を包んだシリウスが部屋に入って来た。

「セレン……すごく、綺麗だ……。あぁもう、このままもう閉じ込めておきたい……」
「朝っぱらから物騒なこと言うのやめて!?」
 私を見るなりに呆けた様子で危険思想をつぶやいたシリウスに、思わず声を上げる。

 だけど、綺麗なのはシリウスだってそうだ。
 白い騎士の正装が美しいシリウスによく似合っている。

「あ、あの、シリウス。これって……」
「……うん。結婚式だよ。私と、セレンの」
 そう言ってシリウスは、私の手をとって笑った。

「この一週間、この日のためにいろんな人に掛け合って協力してもらいながら準備をしていたんだ。セレンをちゃんと幸せにするために、けじめをつけたかったから」
「シリウス……」
 もしかして、ここのところ忙しく出ていたのは、このため?

「場所は少し離れた場所にあるんだ。一緒に来てくれるかい?」
「えぇ、もちろん」
 私は潤んだ目を細めると、そう彼の手をぎゅっと握り返した。

 ***

 驚かせたいからと窓にカーテンを敷かれ、馬車に揺られる。
 その間ももちろん、私の定位置はシリウスの膝の上だ。

「ね、ねぇシリウス。やっぱり私、一人で──」
「だーめ。結婚するってなった時、今まで我慢していた事全部、我慢することをやめたんだ。セレンとこうしているのが、私に夢だったんだから」
「なんて夢持ってたの!?」

 そんな素振り全くなかったどころか、塩対応だったのに。
 思春期の好き避け、恐るべし……。

「ふふ。本当はずっと、こうしてどろどろに甘やかしたかったし、ずっとくっついていたかった。でもそれが出来なくて……。だから、あんな形でも結婚したからには、きちんと自分を変えていこうって思ったんだよ。と、いうことで、これからも私のすべてをもってセレンを甘やかすつもりだからね」

 ……これ以上甘やかされたら糖分過多になるわ、きっと。

 そうこうしているうちに、馬車が停車したのがわかった。
「ついたね」
 馬車のドアが開かれて、そこから見えた景色に、私は思わず息を呑んだ。
「!! ここ……」
 ゆっくりと、シリウスのエスコートで、その地に足を下ろす。

 さらさらと爽やかな風に揺れる木々。
 キラキラと日の光が反射してきらめく泉。
 その周りには、色とりどりの花が取り囲む、美しい場所。

 そう、ここは【小鳥姫と騎士】の聖地──シレシアの泉だ。

 そして泉の傍には、王太子殿下、国王夫妻、メイリー様、カルバン公爵夫妻に私の実家であるピエラ伯爵家のお父様とお母様、ロージウスお兄様にアンネお義姉様、メイリー様が揃っていた。
 それに泉の入口を振り返れば、エルヴァ様達騎士団の方々が守りを固めているではないか。

「これは……」
 驚く私に、王太子殿下がにっこりと笑った。
「セレンのためにシレシアの泉で結婚式を挙げたいと城に直談判しに来てね。いやー、愛のこもった良い演説だった。せっかくだから、私達も参列させていただいたよ」
 王太子殿下だけでなく、国王陛下や王妃様まで……って、いったいどんな演説をしたんだ……。

「私のところでも愛のこもった大演説をしにきてね。まぁでも、セレンを幸せにするのだと、そのためにけじめをつけたいというその心、しっかり受け取ったよ。セレン、幸せになれ」
「お兄様……」
 王太子殿下のところだけでなく、ピエラ伯爵領にも足を運んでくれたのか。
 私の大切な人達を大切にしてくれるその思いに、胸がギュッと熱くなる。

 シリウスのエスコートのままにシレシアの泉の目の前へと進み出ると、その澄んだ泉の色が鮮明に見えて、私は大きく目を見開いた。
 キラキラと揺らめく水面に吸い込まれてしまいそう。

「シリウス」
「ん?」
「ありがとう。私、すごく幸せだわ」
 そう頬を緩ませれば、シリウスもそれに応えるように微笑んだ。

「セレン。ずっと大切にするよ。この精霊溢れる大地に誓って」
 そして私の薬指に銀の指輪がはめられ、同じ指輪の嵌められたシリウスの手が私の頬を誘い、私の唇にシリウスのそれが静かに重なった。

 諦めていた結婚式。
 諦めていた指輪。
 諦めていた私たちの関係。
 何度も夢見たシリウスとの口づけ。

 刹那、私の身体から真っ白い光が放たれ、それは勢いよく空へと飛んでキラキラと弾けていった。

「あれは──」
「セレン様にかけられた【寝言の強制力】の魔法です。これで、魔法は解除されました」
 驚く私にそう言って微笑んだのは、空に浮かんだアイリス。

「さぁ祝え精霊たち!! 私の、私たちのお気に入りの子の幸せを──!!」
「!!」
 アイリスがそう声を上げた刹那、色とりどりの光が泉から、木々から、花々からあふれ出し、ふわふわと浮上して飛び交い始める。

 幻想的なその光景に、思わず私も、シリウスも、そしてその場にいた誰もが感嘆の声を上げた。

「ありがとう」
 祝いに駆けつけてくれた精霊たちに感謝を告げる。
 彼らが私を思って【寝言の強制力】という力を付与しなければ、私はシリウスと結婚することはできなかった。
 シリウスの思いを確かめることもできなかったし、お互いの思いを交わし合うこともできなかった。

「セレン」
「ん?」
「愛してる」
「私も。愛してるわ」

 光が舞う。
 花が舞う。
 精霊溢れる美しいこの国で、私は大切な人とともに、幸せに生きていく。



END

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