一夜から始まる、不器用な魔術師の溺愛

「あーあ。誰か、処女を貰って欲しい。」

つい口にした瞬間、リリアが飲んでいた酒を吹き出しそうになった。

「そこ⁉ 恋人作る前にそこなの⁉」

リリアは肩を震わせて笑い転げる。

「リリアは分かんないかもしれないけど、二十二歳で処女なんて、行き遅れもいいところじゃん。」

やけになってそう言うと、隣の席からクスクスと笑い声がした。

「……そんなにおかしいですか？」

むっとして視線を向けた瞬間、思わず息を呑む。

そこに座っていたのは、涼やかな目元と整った横顔を持つ、信じられないほどの美貌の青年だった。

黒髪が夜の灯りにきらめき、どこか人を寄せつけない雰囲気をまとっている。

けれど、口元にはからかうような笑み。

「悪い、つい笑ってしまって。……そんなに困ってるなら、俺でよければもらってやるけど？」

さらりと告げられた一言に、私は目を見開いた。

冗談にしては真剣な響きがあった。