一夜から始まる、不器用な魔術師の溺愛
「本当にいいんですか?」

勇気を振り絞って問いかけると、彼はふっと笑みを浮かべた。

「もちろん。……君がよければだけど。」

その整った顔に、胸がどきんと鳴る。

恋をしたこともない私が、初めて男の人に心臓を揺さぶられた瞬間だった。

(こんな超イケメンに抱かれるなら——処女なんて、惜しくない)

「はい……お願いします。」

震える声でそう告げると、彼は「そうか」と小さく笑い、自然な仕草で私の手を取った。

夜の街を並んで歩き、一軒の宿へ入る。

宿の主は私を一目見るなり、じろじろと視線を注いできた。

黒い帽子を被った魔女は、この国では“特別な存在”。

本来なら敬遠されるはずの女が、男と連れ立って夜の宿に入る——

その視線には、好奇と蔑みが入り混じっていた。

私は帽子を深く被り直し、俯いた。

けれど彼は意に介さず、淡々と宿銭を払う。
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