ハイスペ男子達の溺愛が止まりません!

6,私の過去

私は、弱いものいじめが嫌いだった。
よってたかって1人をいじめるなんて卑怯だし、最低なことだと思っていた。
だから、そんな姿が見えるたびに後先考えずに止めに入った。
最初はみんな感謝してくれて、私を頼ってくれた。
「ありがとう」
「白雪さんがいてくれて良かった」って。
昔から運動神経が良かった私は、喧嘩で負けることなんてなかったし、悪を成敗できる……そう、信じていた。
だけどある日のこと。
クラスメイトの1人から呼び出された。
過去に助けたことがあるらしく、そのお礼がしたいからと体育館倉庫の前へ来て欲しいと。
こういうことは前にもあったし、私はなんの疑問を抱かず指定された場所へと向かった。
だけどそこにいたのはクラスメイトの姿ではなく、他校の生徒らしき集団だった。
「……お前、調子に乗ってるらしいな?」
強面な真ん中にいる男子が薄ら笑いを浮かべながら問いかける。
嵌められたのだとこの時ようやく気づいた。
だけど、クラスメイトに対して怒りは湧かなかった。
思い返してみればビクビクと申し訳なさそうにしていたので、多分無理矢理呼び出し役をさせられたのだろうということが想像できたから。
「……調子になんて乗ってないよ。」
だって私は、いじめられている子を助けただけだ。
みんなから感謝されるのは嬉しかったけど、それにあぐらをかいたことなんて一度もない。
だから反論した。
その後、案の定というべきか一斉に襲いかかってきた男子達。
私はそれを次々に捌いていった。
本当は誰かを傷つけるなんてしたくなかったし、暴力が好きではなかった。
だけどもしここで何もせずに逃げたら、あの男の子が今度は被害に遭ってしまう。……そう思って戦った。
「……ふぅ」
全員がのびたのを確認してから、私は息をついた。
あれ、あそこにいるのって……。
さっきまでは集中していて気にも止めてなかったが、物陰に私のことを呼び出したクラスメイトが隠れていることに気がついた。
「……あの」
声をかけると、ビクッと肩が跳ね上がったのがわかった。
私は安心させられるような言葉を考えて、口を開く。
「……来ないでっ!」
だけど、その言葉が口から出ることはなく、男の子の叫びによって遮られてしまった。
私は怯えた男の子の様子に戸惑いを隠すことができなかった。
どうしよう、やっぱりあんな人達に命令されて怖かったよね。
なんて声をかけたら……。
そんな心配は、次の言葉によってかき消された。
「……く、来るな!」
「……っ」
言葉が出なかった。
頭が真っ白になる。
不良達に怯えてるんだと思っていた男の子はその瞳は私を映している。
……彼は私が怖かったのだ。
そのことを理解して、何も言えなくなってしまった。
そりゃそうだ。
目の前でガタイの良い男子が次々に倒れているのを見たら、怖いにきまってるよね……。
これ以上ここにいても怖がらせてしまうだけだと悟った私は、その場を後にした。
その日から。
私を取り巻く環境は一変した。
今まで仲良くしていた子は一気に避けられるようになった。
声をかけたら逃げられ、何もしていなくてもヒソヒソと陰口を言われる。
「6年生の男子を1人でやっつけたんだって。」
「キレたら誰にもとめられないらしいよ。」
噂に尾鰭がついていって加速する。
どんどんよくない方向に変化していった噂を、もう止めることなんてできなかった。
最初は弁解していたのも、噂が大きくなるにつれて意味をなさなくなった。
事実が脚色されて、私は完全に悪者扱いだった。
そしてわかったのだ。
暴力じゃ何も解決しないんだと。
……遅すぎるくらいだった。
元からわかっていた。
それでも、言葉では止められないから力が必要だった。
だけどそれは間違っていたのだとわからされてしまった。
あんなに毎日一緒に過ごした友達が次の日には陰口を叩く。
そんな変貌っぷりを知ってしまったからか、私は人が怖くなった。
私がいてもいなくても、どんな些細なことでも悪く言われてしまう。
人に見られるのが怖くなった。
視線が怖くなった。
目立つことが、人前に立つのが怖くなった。
その日から、私は……目立たないように生きると決めた。
前に立っても、いつかは裏切られる。
どんなに仲良くしても、避けられる。
それなら最初から誰にも気にも止められないような空気のような存在になれば良いと思った。
それでも正義感は残っていた私は、暴力に訴えない存在として浮かんだ弁護士を目指そうと決めた。
多分、もう人から怖がられたくなかったからだろう。
……私は、どんなに怖くても人が好きなのだ。誰かに頼られることが嬉しかったんだとその時になってようやく気がついた。
だからトラウマを克服できるように、心機一転して誰もいない所でやり直そうと決意した。
ちょうどその時に、県外だけど学力はトップ。さらには大学の推薦までもらえる七星学園の存在を知った。
家が決して裕福ではなかったので、特待生になると学費がタダになるという条件に飛びついた。
そこからは休む暇もなくがむしゃらに勉強して、見事合格。
無事に特待生の座を勝ち取ったのだった。
一人暮らしは心配とのことで今は叔母家族の家に居候中。
それが私の過去のお話。
大切だと思える人達に出会うまでの出来事だ。
 
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