ハイスペ男子達の溺愛が止まりません!
7,初仕事
「以上で授業を終わる。……あぁ、そうだ。」
いつもすぐに立ち去る先生が、今日は何かを思い出したようにしながらその場に残ったことで、みんなの視線が集中する。
どうしたんだろう?
私も不思議に思ってノートから教卓へと視線を移した。
「最近この辺りで我が校の生徒を狙った恐喝が起こっているらしい。皆も充分に気をつけるように。」
そう言い残し、教室を出ていった。
後に残された私達は一瞬の沈黙の後、ワッと騒ぎ始める。
「カツアゲかぁ。俺が相手なら返り討ちにしてやるけどな。」
「新、それじゃあ傷害事件でしょ。停学喰らいたいの?」
「……くっ、それは困る!大会出れなくなるじゃん!」
なんてやり取りを聞きながら、早々に荷物を片付けた私は、帰ろうと席を立った。
「おー白雪、またな。」
「うん、また明日。」
あの事件の日から、私は彼らに普通に接することにした。
もう目立ってしまったのも、同じクラスになったのも変えられない。
それなのにいつまでも女子の視線を怖がって、みんなを蔑ろにする方が嫌だと思った。
まだ克服なんてできていないけど、この人達は信じたい、そう思ってしまったから。
それにしても、『またな』……か。
挨拶がこんなに嬉しいなんて思いもしなかったな。
鼻歌でも口ずさんでしまいそうになりながら、扉へと手を伸ばした。
教室を出ようとドアまで向かったちょうどその時、手動なはずの扉が開かれ、私ははたと足を止める。
「……良かった、全員いるな。」
先生がどうしてここに?
姿を現したのは、私達のクラスを受け持つ担任の先生だった。
いつもは帰りの会などせずに自由に帰って良いという形を取っていたので、来るはずもないその人物に驚き、動きを止めてしまう。
「お、白雪。帰ろうとしてた所悪いな、席に戻ってくれ。……話があるんだ。」
そう言われてしまったらその通りにするしかないので、私は大人しく席に戻った。
先生にしては珍しく真、剣……?
いつも気だるそうにしている姿しか見たことが無かったので、今日は真面目な雰囲気なのに違和感を覚える。
そんな視線に気がついたのか、先生はぐるっと教室を見回した後で口を開いた。
「今日はお前らに説明しないといけないことがある。」
さっきも言ってたけど、大事な話なのかな。
全員が残されるのも、先生が放課後に教室にいるのも入学式以来だ。
なんだろうと少しの不安と好奇心を浮かべながら、私は先生の話に耳を傾けた。
「この学園のSクラスが生徒会になることは知っているよな?」
一応確認だというように問いかけられて、まばらに頷く。
「これは生徒の自主性を伸ばすために取り入れられた仕組みだが、課題を見つけ、解決に導くという仕事を生徒自身……つまり生徒会が担っている。」
初めて聞くことに私はごくんと唾を飲んだ。
生徒会って、そんなに責任重大なんだ。
Sクラスが生徒会のメンバーになることは知っていたけど、まさかその生徒会が自治まで行っていたなんて……。
「そこでだ。次期生徒会のお前らに、仕事が来た。」
ここからが本題だというように一拍置いてから話を進める。
仕事……その言葉に1番に反応したのは赤羽くんだった。
「おっしゃ、初任務じゃん!」
楽しそうなその声に、私の不安はどこかへ飛んて行ってしまう。
「赤羽、嬉しいのはわかったから取り敢えず座れ。」
ガッツポーズをして喜びを体全体で表現する赤羽くんに、先生は「元気なのは良いけどな」と少し呆れながらに注意する。
そして赤羽くんが座ったのを確認すると、再び口を開いた。
「……もう聞いているかもしれないが、この辺りでうちの学校の生徒を狙ったカツアゲが何件か起きている。」
そういえば、そんな話を先ほど聞いたばかりだ。
本当、どこにでもこういう人はいるものだ。
しかも、一件だけじゃないって……。
学校に恨みを持っているのか、はたまたこの辺りで活動しているだけなのか。
今の私には知る由もないけど、同じ学校の生徒が被害に遭ったと聞いて気分が良くなるはずもなく。
教室はしんっと静まり返った。
「それで今回は、この案件をお前らが担当することになった。」
えっ……?
私は驚いて目を見開いた。
だって、私達が担当って……。
初めての仕事だよ?
なのにこんな重そうな内容……。
顔に出てしまっていたのか、先生は苦笑する。
「とはいっても、あくまで能力を見るためのものだ。危険なことは一切する必要はないし、解決しなくても良い。」
「気楽にな」なんて最後につけ足して、先生はすたすたとどこかへ行ってしまう。
えっ……と。
状況が上手く飲み込めていない私は、他の人はどうだろうと教室を見回した。
「じゃあ早速作戦会議しようぜ!」
意気揚々と立ち上がった赤羽くん。
そのあまりにも楽しそうな表情に私はもはや尊敬の念を抱いた。
どうしようって戸惑うんじゃなくて、すぐに行動に移せるのは赤羽くんの良い所だよね。
「そうだね、まずは方針を決めないと。」
「任されちゃったものは仕方ない」そう言って緑川くんは立ち上がる。
そのまま黒板へと向かい、チョークを手にした。
スッスッとものすごい速さでスマホで操作しながら黒板に図を書いていく。
現れたのは校内マップとその周辺に幾つかのばつ印がついたものだった。
「ここが被害にあった場所だよ。」
振り返りながらニコッと笑顔を浮かる緑川くん。
すごい!こんな短時間でまとめるなんて。
「こうやってみると、人通りが少ないところに集中してるな!」
赤羽くんはウキウキとしているのか声を弾ませながら分析する。
確かにバッテンが沢山あるのは大通りから外れた所だ。
……って、それはわかったけど……。
「なんでみんなそんなに適応能力高いの!?……さっき話を聞いたばっかりだよね?」
まさか事前に知ってた、とか?
私は置いてけぼりにされたような気持ちになって不安で尋ねる。
「そうだけど、生徒会が取り仕切ってるのは見学の時になんとなくわかるじゃん。」
「新の言う通り、この学園は生徒主体だからね。近々こうなるんじゃないかなって思ってたよ。」
な、なるほど……。
そういえば私、進路を決めたのが直前だったから、見学に来てない。
県外から来ているわけだし、試験も別会場で受けたのだ。
だからこの学校の雰囲気を知る機会がなかったんだと今更になって気づく。
2人……というかここにいる全員は事前に見たことがあったようで、むしろ私が驚いていることに驚いているようだった。
「そっか、みんなは知ってたんだね。ごめん、騒がしくして。」
そんな視線に耐えかねた私は謝罪を入れて席に着いた。
うわぁ、恥ずかしい……!
思わず頬に両手を当てる。
「いや、俺も知ってる前提で話を進めちゃってたね。……えっと、白雪さんが大丈夫なら話を進めても良いかな?」
「だ、大丈夫です。」
気遣うように問いかけられて、どうぞどうぞと頷いた。
「それじゃ……それぞれどう対処していくか意見を出していこっか。」
「俺は、囮作戦が良いと思う!」
最初に手を挙げたのは赤羽くん。
元気に宣言したのはそんな物騒な言葉だった。
「確かにこれだけ犯行現場がわかっているなら、次の現場も予測はしやすいと思う。だけど、囮作戦は危険すぎないかな?」
赤羽くんの提案に緑川くんは頷いて見せた後、課題を指摘する。
「そうか?そんな危なくないと思うぜ。それに、俺らが囮になって犯人を一網打尽にすれば一発じゃん。」
赤羽くんは自信満々にそう答えた。
確かに運動神経が抜群のメンバーはいるし、不可能な話ではないのかもしれない。
「……あのね、新。それじゃ根本的な解決にならないでしょ。」
はぁと頭を押さえながら緑川くんは冷静に言い放った。
「根本的……?犯人さえ捕まえれば、もうカツアゲは起きないだろ。」
そうなんだけど、そうじゃないというか……。
「じゃあ、別の人がカツアゲをし始めたら?この件は解決しても、また同じ被害者が出るよ。それに、そもそも犯人が全員その場に現れるとは限らないよね?」
緑川くんの言うことは最もなことだった。
「それは……確かに。」
しゅんと項垂れる赤羽くん。
「あらちゃんは血気盛んだからね。」
苦笑いを浮かべながら桃瀬くんは持っていたペンをくるりと回した。
何かを書いていたようで、机の上にはスケッチブックが開かれて置かれている。
私はそれを横目で見ながら、おずおずと手を挙げた。
何を言うつもりなのだろうと視線が集まる。
ドキドキと心臓が煩くなるのを武者震いだと無理やり誤魔化して、私は口を開いた。
「人通りが少ない所で被害が出てるなら、人が少ない場所を避けて帰るように生徒に呼びかけたり、明るい時間に帰るようにしたら良いんじゃないかな?」
私が犯人でも人が目立つ所でわざわざ犯罪を犯そうだなんて思わないし、それで通報されたら元も子もない。
まぁ、そんな考え自体が良くないけれど、そのことを前提に考えると、やっぱり人目が多い中を帰るのが1番だという結論に辿り着いたわけだ。
「それが無難な策かな。」
緑川くんは黒板に私の意見を記した。
「……それじゃあ解決したことになりませんよね?」
低音が教室に響く。
私は恐る恐るというように声の主の方へと視線を向けた。
ちょうど指で眼鏡を押さえている所で、私と目が合うと眉間に皺を寄せる。
その表情は文句でもあるのかと言いたげだった。
「ほら煌、白雪さんに突っかからないの。」
緑川くんが嗜めるように言うと、
「突っかかってるわけではありませんよ。犯人をどうにかしないと、意味がないと言っているんです。」
ムッと口を尖らせて反論する。
青柳くんの言っていることは正しいと思う。
私の出した案はこちらからアプローチをしないいわば保守的なものだ。
犯人を捕まえない限り堂々巡りになってしまうだろう。
被害を抑えるのではなくなくすには、青柳くんや赤羽くんが言っていたみたいに犯人をどうにかするべきだ。
それはわかってる。でも……。
「煌の意見もわかるけど、危険だよ。俺は賛成できない。」
バチバチッと3人の間に火花が散ったような感覚に陥る。
ど、どうしたら……。
重くなってしまった空気をどうにかしようと、私は言葉を探した。
「あ、あのっ……」
「なら見回りするのはどう?」
私と桃瀬くんの声が被る。
「見回り?」
その言葉に1番に反応したのは赤羽くんだった。
「そう。人通りが多ければ良いんでしょ?だったら僕達が見回って人目を増やせば良いんじゃない?犯人を見つけたらすぐに警察に連絡。そうすれば危険を冒さずに犯人を捕まえられるでしょ?」
「どおどお?」と可愛らしく首を傾げる桃瀬くんに「それだ!」と赤羽くんは食いついた。
「うん、それならそんなに危なくないし、俺も賛成かな。……奏真もそれでいい?」
今まで静観していた橙山くんの方へと顔を向けて、確認を取る緑川くん。
橙山くんが軽く頷いたのを見て、「白雪さんも良い?」と私にも聞いてくれる。
周りのことをよく見ているなと思いながら、特に反論もなかった私は首を縦に振った。
「じゃあ見回りをするということで決定ね。全員で回るのもありだけど、被害にあった場所がバラバラだから、3チームくらいに分かれよっか。」
まとまって安心したのか緑川くんは笑顔を浮かべていた。
「だな。玲央、一緒に回ろうぜ。」
「じゃあ白雪さんは俺と組もう。何かあった時に守れるように。……2人も自分の身くらい守れるよね?」
最後の言葉で気がついた。
緑川くんは動ける人がどのペアにも入るように割り振っていたことに。
赤羽くんはサッカー部だし、緑川くんはバスケ部のエース。どちらも運動神経が悪いはずがない。
橙山くんと青柳くんもこの学園の特待生になったくらいだし、ある程度の運動神経は持ち合わせているのだろう。
それで、グループ決めをした。
本当にどこまでも気遣いができる人だ。
私は緑川の横顔を眺めながら、頑張るぞ!と気合いを入れるのだった。
いつもすぐに立ち去る先生が、今日は何かを思い出したようにしながらその場に残ったことで、みんなの視線が集中する。
どうしたんだろう?
私も不思議に思ってノートから教卓へと視線を移した。
「最近この辺りで我が校の生徒を狙った恐喝が起こっているらしい。皆も充分に気をつけるように。」
そう言い残し、教室を出ていった。
後に残された私達は一瞬の沈黙の後、ワッと騒ぎ始める。
「カツアゲかぁ。俺が相手なら返り討ちにしてやるけどな。」
「新、それじゃあ傷害事件でしょ。停学喰らいたいの?」
「……くっ、それは困る!大会出れなくなるじゃん!」
なんてやり取りを聞きながら、早々に荷物を片付けた私は、帰ろうと席を立った。
「おー白雪、またな。」
「うん、また明日。」
あの事件の日から、私は彼らに普通に接することにした。
もう目立ってしまったのも、同じクラスになったのも変えられない。
それなのにいつまでも女子の視線を怖がって、みんなを蔑ろにする方が嫌だと思った。
まだ克服なんてできていないけど、この人達は信じたい、そう思ってしまったから。
それにしても、『またな』……か。
挨拶がこんなに嬉しいなんて思いもしなかったな。
鼻歌でも口ずさんでしまいそうになりながら、扉へと手を伸ばした。
教室を出ようとドアまで向かったちょうどその時、手動なはずの扉が開かれ、私ははたと足を止める。
「……良かった、全員いるな。」
先生がどうしてここに?
姿を現したのは、私達のクラスを受け持つ担任の先生だった。
いつもは帰りの会などせずに自由に帰って良いという形を取っていたので、来るはずもないその人物に驚き、動きを止めてしまう。
「お、白雪。帰ろうとしてた所悪いな、席に戻ってくれ。……話があるんだ。」
そう言われてしまったらその通りにするしかないので、私は大人しく席に戻った。
先生にしては珍しく真、剣……?
いつも気だるそうにしている姿しか見たことが無かったので、今日は真面目な雰囲気なのに違和感を覚える。
そんな視線に気がついたのか、先生はぐるっと教室を見回した後で口を開いた。
「今日はお前らに説明しないといけないことがある。」
さっきも言ってたけど、大事な話なのかな。
全員が残されるのも、先生が放課後に教室にいるのも入学式以来だ。
なんだろうと少しの不安と好奇心を浮かべながら、私は先生の話に耳を傾けた。
「この学園のSクラスが生徒会になることは知っているよな?」
一応確認だというように問いかけられて、まばらに頷く。
「これは生徒の自主性を伸ばすために取り入れられた仕組みだが、課題を見つけ、解決に導くという仕事を生徒自身……つまり生徒会が担っている。」
初めて聞くことに私はごくんと唾を飲んだ。
生徒会って、そんなに責任重大なんだ。
Sクラスが生徒会のメンバーになることは知っていたけど、まさかその生徒会が自治まで行っていたなんて……。
「そこでだ。次期生徒会のお前らに、仕事が来た。」
ここからが本題だというように一拍置いてから話を進める。
仕事……その言葉に1番に反応したのは赤羽くんだった。
「おっしゃ、初任務じゃん!」
楽しそうなその声に、私の不安はどこかへ飛んて行ってしまう。
「赤羽、嬉しいのはわかったから取り敢えず座れ。」
ガッツポーズをして喜びを体全体で表現する赤羽くんに、先生は「元気なのは良いけどな」と少し呆れながらに注意する。
そして赤羽くんが座ったのを確認すると、再び口を開いた。
「……もう聞いているかもしれないが、この辺りでうちの学校の生徒を狙ったカツアゲが何件か起きている。」
そういえば、そんな話を先ほど聞いたばかりだ。
本当、どこにでもこういう人はいるものだ。
しかも、一件だけじゃないって……。
学校に恨みを持っているのか、はたまたこの辺りで活動しているだけなのか。
今の私には知る由もないけど、同じ学校の生徒が被害に遭ったと聞いて気分が良くなるはずもなく。
教室はしんっと静まり返った。
「それで今回は、この案件をお前らが担当することになった。」
えっ……?
私は驚いて目を見開いた。
だって、私達が担当って……。
初めての仕事だよ?
なのにこんな重そうな内容……。
顔に出てしまっていたのか、先生は苦笑する。
「とはいっても、あくまで能力を見るためのものだ。危険なことは一切する必要はないし、解決しなくても良い。」
「気楽にな」なんて最後につけ足して、先生はすたすたとどこかへ行ってしまう。
えっ……と。
状況が上手く飲み込めていない私は、他の人はどうだろうと教室を見回した。
「じゃあ早速作戦会議しようぜ!」
意気揚々と立ち上がった赤羽くん。
そのあまりにも楽しそうな表情に私はもはや尊敬の念を抱いた。
どうしようって戸惑うんじゃなくて、すぐに行動に移せるのは赤羽くんの良い所だよね。
「そうだね、まずは方針を決めないと。」
「任されちゃったものは仕方ない」そう言って緑川くんは立ち上がる。
そのまま黒板へと向かい、チョークを手にした。
スッスッとものすごい速さでスマホで操作しながら黒板に図を書いていく。
現れたのは校内マップとその周辺に幾つかのばつ印がついたものだった。
「ここが被害にあった場所だよ。」
振り返りながらニコッと笑顔を浮かる緑川くん。
すごい!こんな短時間でまとめるなんて。
「こうやってみると、人通りが少ないところに集中してるな!」
赤羽くんはウキウキとしているのか声を弾ませながら分析する。
確かにバッテンが沢山あるのは大通りから外れた所だ。
……って、それはわかったけど……。
「なんでみんなそんなに適応能力高いの!?……さっき話を聞いたばっかりだよね?」
まさか事前に知ってた、とか?
私は置いてけぼりにされたような気持ちになって不安で尋ねる。
「そうだけど、生徒会が取り仕切ってるのは見学の時になんとなくわかるじゃん。」
「新の言う通り、この学園は生徒主体だからね。近々こうなるんじゃないかなって思ってたよ。」
な、なるほど……。
そういえば私、進路を決めたのが直前だったから、見学に来てない。
県外から来ているわけだし、試験も別会場で受けたのだ。
だからこの学校の雰囲気を知る機会がなかったんだと今更になって気づく。
2人……というかここにいる全員は事前に見たことがあったようで、むしろ私が驚いていることに驚いているようだった。
「そっか、みんなは知ってたんだね。ごめん、騒がしくして。」
そんな視線に耐えかねた私は謝罪を入れて席に着いた。
うわぁ、恥ずかしい……!
思わず頬に両手を当てる。
「いや、俺も知ってる前提で話を進めちゃってたね。……えっと、白雪さんが大丈夫なら話を進めても良いかな?」
「だ、大丈夫です。」
気遣うように問いかけられて、どうぞどうぞと頷いた。
「それじゃ……それぞれどう対処していくか意見を出していこっか。」
「俺は、囮作戦が良いと思う!」
最初に手を挙げたのは赤羽くん。
元気に宣言したのはそんな物騒な言葉だった。
「確かにこれだけ犯行現場がわかっているなら、次の現場も予測はしやすいと思う。だけど、囮作戦は危険すぎないかな?」
赤羽くんの提案に緑川くんは頷いて見せた後、課題を指摘する。
「そうか?そんな危なくないと思うぜ。それに、俺らが囮になって犯人を一網打尽にすれば一発じゃん。」
赤羽くんは自信満々にそう答えた。
確かに運動神経が抜群のメンバーはいるし、不可能な話ではないのかもしれない。
「……あのね、新。それじゃ根本的な解決にならないでしょ。」
はぁと頭を押さえながら緑川くんは冷静に言い放った。
「根本的……?犯人さえ捕まえれば、もうカツアゲは起きないだろ。」
そうなんだけど、そうじゃないというか……。
「じゃあ、別の人がカツアゲをし始めたら?この件は解決しても、また同じ被害者が出るよ。それに、そもそも犯人が全員その場に現れるとは限らないよね?」
緑川くんの言うことは最もなことだった。
「それは……確かに。」
しゅんと項垂れる赤羽くん。
「あらちゃんは血気盛んだからね。」
苦笑いを浮かべながら桃瀬くんは持っていたペンをくるりと回した。
何かを書いていたようで、机の上にはスケッチブックが開かれて置かれている。
私はそれを横目で見ながら、おずおずと手を挙げた。
何を言うつもりなのだろうと視線が集まる。
ドキドキと心臓が煩くなるのを武者震いだと無理やり誤魔化して、私は口を開いた。
「人通りが少ない所で被害が出てるなら、人が少ない場所を避けて帰るように生徒に呼びかけたり、明るい時間に帰るようにしたら良いんじゃないかな?」
私が犯人でも人が目立つ所でわざわざ犯罪を犯そうだなんて思わないし、それで通報されたら元も子もない。
まぁ、そんな考え自体が良くないけれど、そのことを前提に考えると、やっぱり人目が多い中を帰るのが1番だという結論に辿り着いたわけだ。
「それが無難な策かな。」
緑川くんは黒板に私の意見を記した。
「……それじゃあ解決したことになりませんよね?」
低音が教室に響く。
私は恐る恐るというように声の主の方へと視線を向けた。
ちょうど指で眼鏡を押さえている所で、私と目が合うと眉間に皺を寄せる。
その表情は文句でもあるのかと言いたげだった。
「ほら煌、白雪さんに突っかからないの。」
緑川くんが嗜めるように言うと、
「突っかかってるわけではありませんよ。犯人をどうにかしないと、意味がないと言っているんです。」
ムッと口を尖らせて反論する。
青柳くんの言っていることは正しいと思う。
私の出した案はこちらからアプローチをしないいわば保守的なものだ。
犯人を捕まえない限り堂々巡りになってしまうだろう。
被害を抑えるのではなくなくすには、青柳くんや赤羽くんが言っていたみたいに犯人をどうにかするべきだ。
それはわかってる。でも……。
「煌の意見もわかるけど、危険だよ。俺は賛成できない。」
バチバチッと3人の間に火花が散ったような感覚に陥る。
ど、どうしたら……。
重くなってしまった空気をどうにかしようと、私は言葉を探した。
「あ、あのっ……」
「なら見回りするのはどう?」
私と桃瀬くんの声が被る。
「見回り?」
その言葉に1番に反応したのは赤羽くんだった。
「そう。人通りが多ければ良いんでしょ?だったら僕達が見回って人目を増やせば良いんじゃない?犯人を見つけたらすぐに警察に連絡。そうすれば危険を冒さずに犯人を捕まえられるでしょ?」
「どおどお?」と可愛らしく首を傾げる桃瀬くんに「それだ!」と赤羽くんは食いついた。
「うん、それならそんなに危なくないし、俺も賛成かな。……奏真もそれでいい?」
今まで静観していた橙山くんの方へと顔を向けて、確認を取る緑川くん。
橙山くんが軽く頷いたのを見て、「白雪さんも良い?」と私にも聞いてくれる。
周りのことをよく見ているなと思いながら、特に反論もなかった私は首を縦に振った。
「じゃあ見回りをするということで決定ね。全員で回るのもありだけど、被害にあった場所がバラバラだから、3チームくらいに分かれよっか。」
まとまって安心したのか緑川くんは笑顔を浮かべていた。
「だな。玲央、一緒に回ろうぜ。」
「じゃあ白雪さんは俺と組もう。何かあった時に守れるように。……2人も自分の身くらい守れるよね?」
最後の言葉で気がついた。
緑川くんは動ける人がどのペアにも入るように割り振っていたことに。
赤羽くんはサッカー部だし、緑川くんはバスケ部のエース。どちらも運動神経が悪いはずがない。
橙山くんと青柳くんもこの学園の特待生になったくらいだし、ある程度の運動神経は持ち合わせているのだろう。
それで、グループ決めをした。
本当にどこまでも気遣いができる人だ。
私は緑川の横顔を眺めながら、頑張るぞ!と気合いを入れるのだった。