ハイスペ男子達の溺愛が止まりません!
8,見回り
「白雪さん、行こっか。」
教科書を入れ終わった緑川くんが肩にバッグを掛ける。
そしてニッコリと効果音がつきそうな笑顔を向けられた。
「う、うん」
その顔に私は一瞬固まった。
緑川くんは物凄く整った顔立ちをしている。
そんな人が笑顔を浮かべたらそれは凄まじい破壊力なわけで……。
まるでキラキラと背景が輝いているように見えて、あまりの眩しさに視線を逸らす。
今までは避けることしか考えてなかったから気づかなかった……というかそこまで気が回らなかったけど、本物の王子様みたいだな。
と、今更ながらに思ってしまったのだ。
見回りの為とはいえ、この人の隣を歩くんだと思うだけで、なんだかプレッシャーを感じる。
校舎を出ると、緑川くんは自然に車道側を歩いてくれるし、人とぶつからないようにさり気なく間に入ってくれたりもする。
適度に話題も振ってくれるし、話していてとても楽しかった。
これは……モテるのも頷ける。
というか、モテない方がおかしい!
そう思えるほど、エスコートが完璧で何度ドキドキさせられたことか。
「……えっと、緑川くんはこの学園にバスケで入ったんだよね?」
見回りと言っても、学校の周りを異変がないか歩くだけなので、私はせっかくの機会だと気になっていた質問を投げかけた。
「有難いことにね。」
スポーツ部門で入ったと噂で聞いたことがある程度だったけど、やっぱり本当なんだ。
感心しながら、会話を続ける。
「すごいね。バスケ初めてどれくらいなの?」
「んー、3年くらい?」
3年……ってことは小3から?
思っていたよりも短かった年数に私は驚いた。
勝手に上手い人は長い期間やっているものだと思っていたから。
こんなに短期間でエースまで上り詰めちゃうんだから、きっとバスケが大好きなんだろうな。
そんなことを思いながら口を開く。
「バスケをやろうと思ったのは、どうして?」
何気ない質問のつもりだった。
だけど、緑川くんから返事が返ってくることはなく、長いまつ毛が伏せられて沈黙が流れる。
それで私は聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと不安になって、足を止めた。
緑川くんはそんな私に合わせて止まった後、顔を上げた。
「兄がやってて、一緒にやるうちに楽しいって思えたからかな。」
「お兄さんがいるんだ!」
だけど明るい返事が返ってきたことで、杞憂だったかなとほっと息をつく。
「嘘だよ。」
「え……嘘?」
理解できずに思考が停止した。
緑川くんはニコッと悪戯が成功した子供のように笑う。
「うん、嘘。」
私の頭はもう疑問符でいっぱいになった。
お兄さんとやったことが嘘ってこと?
なんでそんな嘘をつく必要が……って、やっぱり答えたくなかったとか?
もしかして私、余計な詮索しちゃった……?
だけどそれは段々と不安へ変わっていった。
進み始めた足は、ゆっくりになる。
「あははっ、白雪さんって結構顔に出るんだね。」
そんな私を見て緑川くんは楽しそうに笑っている。
緑川くんもこんな冗談言うんだ。
まじまじと緑川くんを見つめた後、私も彼に倣って前を向く。
なんか意外かも。
まだ会って少ししか経っていないけど、なんとなく大人っぽいイメージがあったから、こうやって揶揄われるなんて夢にも思っていなかったのだ。
距離を取っていたからって言うのもあるかもしれないけど……。
新たな一面を知れたことで、少しだけ仲良くなれたような気がする。
ふふっと笑うと、緑川くんは私を少し見つめて目を細める。
「お詫びに本当の理由を教えてあげる。」
緑川くんはふっと今度は含みのある笑みを浮かべた。
「本当の、理由……?」
おうむ返しのように聞き返した私に、「うん」と優しく頷いて立ち止まる。
「……俺ね、好きな子がいるんだ。」
ザァッと風が吹き抜ける。
髪の隙間から瞳を覗かせる緑川くんは不思議な雰囲気を醸し出していた。
「す、好きな子!?」
たっぷり3秒掛けて理解した私は、驚いて声を上げる。
「そう。その子にかっこいいって思って欲しくて始めたんだよ。」
知らなかった。
そんな理由があったことももちろんだけど、1番意外だったのは、モテそうだと思っていた緑川くんがずっと一途に誰かを思い続けていたことだ。
「……幻滅した?」
無言だったのをどう捉えたのか、緑川くんは切なそうに眉を下げる。
「まさか!素敵な理由だなって思ったくらいで……」
私はぶんぶんと首を横に振る。
好きな子のためにここまで頑張れちゃうなんて、すご過ぎる。
心からそう思った。
「素敵……?不純じゃなくて?」
ビックリとしたように聞き返されて、食い気味に反論する。
「不純なんてそんな!だって、誰かのために努力できるのはとってもかっこいいことだよ!」
エメラルドの瞳を真っ直ぐに見つめる。
気持ちの表れか、気づけば前のめりに話していた。
緑川くんは少し目を見開いた後、柔らかい笑顔を浮かべる。
「……“かっこいい”、ね。」
まるで自分に言い聞かせるように呟く緑川くんに私はうんうんと頷いた。
「ありがとう。白雪さんに言われると、自信つくな。」
「えっ……!?」
私に言われると……?
意味深な言葉に驚いて声をあげてしまう。
そんな私を緑川くんは楽しそうに見ていた。
これ、また揶揄われてる……?
疑いの眼差しを向けると、緑川くんは少しだけ口角を上げた。
「今度は本当だよ。」
その顔からは何を考えているのか読み取ることはできなかった。
緑川くんは基本的に笑顔だけど、腹の底が見えないんだよね……。
それで私は真意を探るのを諦めた。
「……白雪さんは、俺の好きな子と纏ってる雰囲気みたいなのが同じなんだよ。」
「雰囲気……」
緑川くんの意図を読み取ろうと繰り返してみたけど、理解できずに首を傾げた。
ちょうど信号が点滅する。
雰囲気……雰囲気?
うーん
頭を捻ってみても、よくわからかった。
「考え方がね、似てるんだよ。」
考え方、か……。
私に伝わっていないことに気づいた緑川くんは、少し考える素振りを見せた後で、そう付け加えた。
「ほら、白雪さん突き飛ばされた時も、絶対に避けられたのにそれをしなかったでしょ?反撃だってしてなかったし。」
えっ、ちょっと待って……!
一体緑川くんはいつから見て……。
「それにカツアゲが起こってるって知った時も皆んなが怪我しないように安全な作戦を言ってたよね。そういう他人に優しいのに自分には無頓着なところがどこと無く似てるんだよ。」
絶対私がもの言いたげな顔で見ていることに気づいているだろうに、緑川くんはそこまで話してようやくどうぞというようにこっちを見た。
もう何から突っ込んでいいのやら。
取り敢えず……
「いつから見てたの?」
1番気になっていたことを聞いてみる。
「うーん、割と最初からかな。」
やっぱりそうなんだ……。
「呼び出されてたっぽいから、心配して着いて行ったんだよ。そしたら案の定というべきか……」
心配、してくれてたんだ。
その時にはこうやって話だってしてなかったのに。
……私よりずっと緑川くんの方が優しいよ。
赤羽くんの囮作戦に最初に反対したのも緑川くんだったよね。
何を考えてるのかはさっぱりだけど、少なくとも……優しくて、誰かのために一生懸命になれることはわかった。
……って、めちゃくちゃ良い人過ぎない!?
改めて思う。
「ありがと。」
もう一度お礼の言葉を口にする。
「どういたしまして。」
緑川くんはその口元に綺麗な弧を描いた。
「その……、緑川くんの好きな子とは、小学校が同じだったの?」
ここまで来たら気になってしまい、私は思わず聞いてしまった。
「ううん」
あれ、違うんだ。
「じゃあ近くに住んでるとか?」
「それも違うかな。」
んん……?
「なら名前!その子の名前は?」
「……さぁ」
さぁ!?
さぁってどうゆう……。
チラッと緑川くんの方を見ると、困ったように笑われてしまった。
はぐらかしたんじゃなくて、本当に名前を知らないんだ……。
ならどんなきっかけで好きになったんだろう?
そもそもどうやって出会ったの!?
ぐるぐるといろんな疑問が浮かんできて、次に何を聞けば良いのかわからなくなる。
信号が青に変わった。
「時間切れ、行こ。」
「えっ、時間切れ!?……あっ、ちょっと待って。」
置いていかれそうになり、慌てて後に続く。
どうやらこれ以上答えてくれる気はないみたい。
緑川くんの横顔から私はそう悟ったのだった。
教科書を入れ終わった緑川くんが肩にバッグを掛ける。
そしてニッコリと効果音がつきそうな笑顔を向けられた。
「う、うん」
その顔に私は一瞬固まった。
緑川くんは物凄く整った顔立ちをしている。
そんな人が笑顔を浮かべたらそれは凄まじい破壊力なわけで……。
まるでキラキラと背景が輝いているように見えて、あまりの眩しさに視線を逸らす。
今までは避けることしか考えてなかったから気づかなかった……というかそこまで気が回らなかったけど、本物の王子様みたいだな。
と、今更ながらに思ってしまったのだ。
見回りの為とはいえ、この人の隣を歩くんだと思うだけで、なんだかプレッシャーを感じる。
校舎を出ると、緑川くんは自然に車道側を歩いてくれるし、人とぶつからないようにさり気なく間に入ってくれたりもする。
適度に話題も振ってくれるし、話していてとても楽しかった。
これは……モテるのも頷ける。
というか、モテない方がおかしい!
そう思えるほど、エスコートが完璧で何度ドキドキさせられたことか。
「……えっと、緑川くんはこの学園にバスケで入ったんだよね?」
見回りと言っても、学校の周りを異変がないか歩くだけなので、私はせっかくの機会だと気になっていた質問を投げかけた。
「有難いことにね。」
スポーツ部門で入ったと噂で聞いたことがある程度だったけど、やっぱり本当なんだ。
感心しながら、会話を続ける。
「すごいね。バスケ初めてどれくらいなの?」
「んー、3年くらい?」
3年……ってことは小3から?
思っていたよりも短かった年数に私は驚いた。
勝手に上手い人は長い期間やっているものだと思っていたから。
こんなに短期間でエースまで上り詰めちゃうんだから、きっとバスケが大好きなんだろうな。
そんなことを思いながら口を開く。
「バスケをやろうと思ったのは、どうして?」
何気ない質問のつもりだった。
だけど、緑川くんから返事が返ってくることはなく、長いまつ毛が伏せられて沈黙が流れる。
それで私は聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと不安になって、足を止めた。
緑川くんはそんな私に合わせて止まった後、顔を上げた。
「兄がやってて、一緒にやるうちに楽しいって思えたからかな。」
「お兄さんがいるんだ!」
だけど明るい返事が返ってきたことで、杞憂だったかなとほっと息をつく。
「嘘だよ。」
「え……嘘?」
理解できずに思考が停止した。
緑川くんはニコッと悪戯が成功した子供のように笑う。
「うん、嘘。」
私の頭はもう疑問符でいっぱいになった。
お兄さんとやったことが嘘ってこと?
なんでそんな嘘をつく必要が……って、やっぱり答えたくなかったとか?
もしかして私、余計な詮索しちゃった……?
だけどそれは段々と不安へ変わっていった。
進み始めた足は、ゆっくりになる。
「あははっ、白雪さんって結構顔に出るんだね。」
そんな私を見て緑川くんは楽しそうに笑っている。
緑川くんもこんな冗談言うんだ。
まじまじと緑川くんを見つめた後、私も彼に倣って前を向く。
なんか意外かも。
まだ会って少ししか経っていないけど、なんとなく大人っぽいイメージがあったから、こうやって揶揄われるなんて夢にも思っていなかったのだ。
距離を取っていたからって言うのもあるかもしれないけど……。
新たな一面を知れたことで、少しだけ仲良くなれたような気がする。
ふふっと笑うと、緑川くんは私を少し見つめて目を細める。
「お詫びに本当の理由を教えてあげる。」
緑川くんはふっと今度は含みのある笑みを浮かべた。
「本当の、理由……?」
おうむ返しのように聞き返した私に、「うん」と優しく頷いて立ち止まる。
「……俺ね、好きな子がいるんだ。」
ザァッと風が吹き抜ける。
髪の隙間から瞳を覗かせる緑川くんは不思議な雰囲気を醸し出していた。
「す、好きな子!?」
たっぷり3秒掛けて理解した私は、驚いて声を上げる。
「そう。その子にかっこいいって思って欲しくて始めたんだよ。」
知らなかった。
そんな理由があったことももちろんだけど、1番意外だったのは、モテそうだと思っていた緑川くんがずっと一途に誰かを思い続けていたことだ。
「……幻滅した?」
無言だったのをどう捉えたのか、緑川くんは切なそうに眉を下げる。
「まさか!素敵な理由だなって思ったくらいで……」
私はぶんぶんと首を横に振る。
好きな子のためにここまで頑張れちゃうなんて、すご過ぎる。
心からそう思った。
「素敵……?不純じゃなくて?」
ビックリとしたように聞き返されて、食い気味に反論する。
「不純なんてそんな!だって、誰かのために努力できるのはとってもかっこいいことだよ!」
エメラルドの瞳を真っ直ぐに見つめる。
気持ちの表れか、気づけば前のめりに話していた。
緑川くんは少し目を見開いた後、柔らかい笑顔を浮かべる。
「……“かっこいい”、ね。」
まるで自分に言い聞かせるように呟く緑川くんに私はうんうんと頷いた。
「ありがとう。白雪さんに言われると、自信つくな。」
「えっ……!?」
私に言われると……?
意味深な言葉に驚いて声をあげてしまう。
そんな私を緑川くんは楽しそうに見ていた。
これ、また揶揄われてる……?
疑いの眼差しを向けると、緑川くんは少しだけ口角を上げた。
「今度は本当だよ。」
その顔からは何を考えているのか読み取ることはできなかった。
緑川くんは基本的に笑顔だけど、腹の底が見えないんだよね……。
それで私は真意を探るのを諦めた。
「……白雪さんは、俺の好きな子と纏ってる雰囲気みたいなのが同じなんだよ。」
「雰囲気……」
緑川くんの意図を読み取ろうと繰り返してみたけど、理解できずに首を傾げた。
ちょうど信号が点滅する。
雰囲気……雰囲気?
うーん
頭を捻ってみても、よくわからかった。
「考え方がね、似てるんだよ。」
考え方、か……。
私に伝わっていないことに気づいた緑川くんは、少し考える素振りを見せた後で、そう付け加えた。
「ほら、白雪さん突き飛ばされた時も、絶対に避けられたのにそれをしなかったでしょ?反撃だってしてなかったし。」
えっ、ちょっと待って……!
一体緑川くんはいつから見て……。
「それにカツアゲが起こってるって知った時も皆んなが怪我しないように安全な作戦を言ってたよね。そういう他人に優しいのに自分には無頓着なところがどこと無く似てるんだよ。」
絶対私がもの言いたげな顔で見ていることに気づいているだろうに、緑川くんはそこまで話してようやくどうぞというようにこっちを見た。
もう何から突っ込んでいいのやら。
取り敢えず……
「いつから見てたの?」
1番気になっていたことを聞いてみる。
「うーん、割と最初からかな。」
やっぱりそうなんだ……。
「呼び出されてたっぽいから、心配して着いて行ったんだよ。そしたら案の定というべきか……」
心配、してくれてたんだ。
その時にはこうやって話だってしてなかったのに。
……私よりずっと緑川くんの方が優しいよ。
赤羽くんの囮作戦に最初に反対したのも緑川くんだったよね。
何を考えてるのかはさっぱりだけど、少なくとも……優しくて、誰かのために一生懸命になれることはわかった。
……って、めちゃくちゃ良い人過ぎない!?
改めて思う。
「ありがと。」
もう一度お礼の言葉を口にする。
「どういたしまして。」
緑川くんはその口元に綺麗な弧を描いた。
「その……、緑川くんの好きな子とは、小学校が同じだったの?」
ここまで来たら気になってしまい、私は思わず聞いてしまった。
「ううん」
あれ、違うんだ。
「じゃあ近くに住んでるとか?」
「それも違うかな。」
んん……?
「なら名前!その子の名前は?」
「……さぁ」
さぁ!?
さぁってどうゆう……。
チラッと緑川くんの方を見ると、困ったように笑われてしまった。
はぐらかしたんじゃなくて、本当に名前を知らないんだ……。
ならどんなきっかけで好きになったんだろう?
そもそもどうやって出会ったの!?
ぐるぐるといろんな疑問が浮かんできて、次に何を聞けば良いのかわからなくなる。
信号が青に変わった。
「時間切れ、行こ。」
「えっ、時間切れ!?……あっ、ちょっと待って。」
置いていかれそうになり、慌てて後に続く。
どうやらこれ以上答えてくれる気はないみたい。
緑川くんの横顔から私はそう悟ったのだった。