天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~

「……美味しい……」

「そうか。良かった」

 機内誌越しにシオン様の声が聞こえる。表情はわからないが、声は甘い。

「人に淹れるのははじめてだから、よくわからなかった」

「はじめて? 私がですか?」

「ああ。ほかの人間は黒髪が作った食べ物など気味悪がるからな」

 ボソリ、シオン様が呟いて私は胸がキュッとする。

(そうだった。エリカがシオン様の与えた菓子を喜んで食べたのをきっかけに、原作のシオン様は彼女を弟子にすると決めていた)

 両親を亡くしお腹を空かせていたエリカにしてみれば、髪の色などかまってはいられなかったのだろう。それでも、シオン様はエリカの行動に救われたのだ。

(そんなエリカにも自分で紅茶を淹れたことはなかったのね……)

 原作では、幼少期のシオン様は家族のために淹れた紅茶をポットごと投げつけられていた。きっと、彼にはトラウマだったにちがいない。

 私は思わずしんみりとした。そう思うと、より意味のある紅茶に感じられる。
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