天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~
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 そして、旅行の当日になった。

 プラットホームのざわめきのあいだを、初夏の薫風(くんぷう)が駆け抜けていく。たくさんの荷物をポーターが運んでいる様子を、カラスが不思議そうに眺めていた。

 黒色のボディーに金色のペイントで、「Aster(アスター)」と列車の名前が書かれている。紫苑の学名を拝借した。

 シオン様のために開発していた豪華特急寝台列車である。特急列車は普通の列車より揺れが少なく、速度も速い。

 ちなみに、アスターの駆動力となる魔力を凝縮した液体は、ほかの列車より早く走れる特別なものだ。アスターの分だけは魔塔で私がひとりで作っているため、多くは作れないのが難点である。

「目的地の最近駅ができたばかりのハルニレ山脈には電車内で三泊四日することになります」

 黒々とした車体には、目を細めて列車を眺めるシオン様の姿が映り込んでいる。髪を気にするシオン様はフードを目深に被っている。原作の失踪時と同じ姿だ。

「補充の関係から、目的地に着くまで二回停車します。停車時には、降車して観光も可能です。もちろん、車内でのんびり過ごすこともできますよ」

「宿泊は全部車内か?」

 シオン様は列車に向けていた視線を私に向けた。
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