大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
「そうか。……なるほど、わかった」
「?」
やはり声だけでは、旦那様の意図を理解するのは難しい。視覚からの情報がないと、ここまで旦那様の気持ちを察することができないなんて、妻失格なのかもしれない。
食欲が湧かなかったけれど、なんとか押し込んで食べきった。
ここ最近は中庭でお茶、あるいは庭園を旦那様と散歩に誘われるのだが、今日は大事な話があるのか防御魔法がかかった客間に通された。
侍女がお茶を用意した後、退出して二人きりになる。ティーカップの位置からして、私の隣に旦那様がいるのだろう。いつもは向かい合って座るのに、珍しい。
紅茶のラズベリーのいい香りが、少しだけ緊張を和らげてくれた。旦那様が見えなくなって数日経ったけれど、回復する兆しはない。
「……シャル、ここ数日でお前の心も安定したと主治医が話してくれた」
「はい。相変わらず旦那様の姿が見えませんが……執務の遅れなどはないように──」
「ああ、その原因についてなのだが……」
旦那様は言葉を濁す。
何か原因に心当たりがあるのだろうか。
「まずお前に領地経営全般を丸投げして、すまなかった」
「え」
「あれらは本来叔父夫婦が管理して、お前はその手伝いをする程度にしていたのだが、ジェフの調べでお前に全て仕事を回していたようだ」
(親戚は叔父夫婦だったのね)
私が結婚式の時に挨拶した時を思い出した。
彼のご両親は十五歳の時に亡くなっていて、この辺りはファンブックに載っていたが、親戚のことまでは書かれていなかった。旦那様が言うのならそうなのだろう。
「そうだったのですね。知りませんでした」
「ああ。領地経営については今後、俺が指揮を執り、お前にはその補佐を頼みたい」
「はい、わかりました。お気遣いありがとうございます」
「ああ……」
旦那様の力になれるのなら願ったり叶ったり。一緒に居る時間もますます増えると思うと、嬉しさがこみ上げてくる。
私の反応に旦那様の雰囲気も、和らいだような感じがした。
「……次にあの日」
(ん?)
「お前の出迎えを待たずに、自室に戻っていたのは事情があったからだ」
震えた声。
けれど強い意志と決意が声からは窺えた。
あの日。
その言葉に旦那様の声が一瞬で遠のいた。
まるでテレビ画面を覗いているような感覚に陥る。
音声も拾えない。