大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

「そうか。……なるほど、わかった」
「?」

 やはり声だけでは、旦那様の意図を理解するのは難しい。視覚からの情報がないと、ここまで旦那様の気持ちを察することができないなんて、妻失格なのかもしれない。
 食欲が湧かなかったけれど、なんとか押し込んで食べきった。

 ここ最近は中庭でお茶、あるいは庭園を旦那様と散歩に誘われるのだが、今日は大事な話があるのか防御魔法がかかった客間に通された。
 侍女がお茶を用意した後、退出して二人きりになる。ティーカップの位置からして、私の隣に旦那様がいるのだろう。いつもは向かい合って座るのに、珍しい。

 紅茶のラズベリーのいい香りが、少しだけ緊張を和らげてくれた。旦那様が見えなくなって数日経ったけれど、回復する兆しはない。

「……シャル、ここ数日でお前の心も安定したと主治医が話してくれた」
「はい。相変わらず旦那様の姿が見えませんが……執務の遅れなどはないように──」
「ああ、その原因についてなのだが……」

 旦那様は言葉を濁す。
 何か原因に心当たりがあるのだろうか。

「まずお前に領地経営全般を丸投げして、すまなかった」
「え」
「あれらは本来叔父夫婦が管理して、お前はその手伝いをする程度にしていたのだが、ジェフの調べでお前に全て仕事を回していたようだ」
(親戚は叔父夫婦だったのね)

 私が結婚式の時に挨拶した時を思い出した。
 彼のご両親は十五歳の時に亡くなっていて、この辺りはファンブックに載っていたが、親戚のことまでは書かれていなかった。旦那様が言うのならそうなのだろう。

「そうだったのですね。知りませんでした」
「ああ。領地経営については今後、俺が指揮を執り、お前にはその補佐を頼みたい」
「はい、わかりました。お気遣いありがとうございます」
「ああ……」

 旦那様の力になれるのなら願ったり叶ったり。一緒に居る時間もますます増えると思うと、嬉しさがこみ上げてくる。
 私の反応に旦那様の雰囲気も、和らいだような感じがした。

「……次に()()()
(ん?)
「お前の出迎えを待たずに、自室に戻っていたのは事情があったからだ」

 震えた声。
 けれど強い意志と決意が声からは窺えた。

 あの日。
 その言葉に旦那様の声が一瞬で遠のいた。
 まるでテレビ画面を覗いているような感覚に陥る。
 音声も拾えない。
< 10 / 59 >

この作品をシェア

pagetop