大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
「あの女は──、────で、馬乗りになったのも──────」
肝心なセリフが途切れて、耳に届かない。代わりに自分の中にあるナニカが、パキパキと音を立てて崩れ去る。
あの時、私は旦那様に「お帰りなさい」が言いたかった。
浮かれていたのだ。
そして自室をノックする前に声が聞こえた。
その声が鮮明に蘇る。
『愛する奥様に気付かれるかもしれないわよ』
『アレは気付かないさ。付き合ってからずっと気付いていないのだから』
そうだ。どうして忘れていたのだろう。
聞き間違いだと思いたくてドアを開いたら──。
酷い耳鳴りに私は耳を塞ぐ。その先を思い出そうとして私の意識は途切れた。
音が聞こえる。
声?
誰の?
「ああ、クソッ、今日こそは俺の家業のことや、俺がいかにヘタレで臆病者で駄目な奴か妻に話すチャンスだったのに……! 何もかも先送りにしていたせいか? ああああああああああああああ、失敗した。失敗した。誤解を解こうとしたのに、いっそ穴に入って永眠したいぃいいい!」
「旦那様、落ち着いて下さい。あと心の声がダダ漏れです」
「ジェフ、しかしだな……」
「奥様が起きてしまわれます」
「うぐっ……。ああ……シャルの寝顔、可愛くて語彙力が崩壊しそうだ……」
ああ、この声は……旦那様によく似ている。
なんて都合のいい夢……。