大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
第10話 崩れていくもの
パキン。
砕け散った音。
それと同時に、ずっと胸の奥底に抑え込んでいた真っ黒な感情が噴き出す。
直感でそれは芽吹かせてはいけないナニカだと、気づく。自分の中で殻が砕けた後、ナニカが芽吹き私の心を、感情を喰らっていき──。
(……あれ? 私、どうしてこんなに我慢をしていたのだろう?)
心なしかずっと苦しかった感情が和らいだ気がする。ベアトとアイリスに話したからだろうか。
「シャル?」
「え? あ、ごめんなさい。……なんだかちょっとボーッとしてしまって」
「…………」
「……シャーロット、顔色が悪いけど。やっぱり今すぐにでも王都に戻ろう」
なぜか二人とも蒼い顔をしている。
なにか変なことを言ってしまっただろうか。小首をかしげているとベアトは「無断で屋敷を出るのは憚られるだろうから一筆書いて」と言い出した。
その迫力が有無を言わさないものだったので、私は言われるがまま頷くしかなかった。ついさっきまでは「でもでもだって」と言っていたのに、自分でも不思議と「屋敷を出たほうがいいかも」と思うようになっていた。
なぜろう。
少し前までは旦那様を信じていられたのに。
旦那様と離れたくない気持ちが、抵抗感がなくなっていた。
手紙の書き出しは『愛しい旦那様』ではなく『ベルナルド様』となり、文章も味気ないというか簡潔だった。便箋の枚数もいつもなら二、三枚になるはずなのに一枚だけ。
書きたいことが思い浮かばなかった。
不思議だ。旦那様に手紙を書くときは、もっと胸が躍るような気持ちだったのに、どうしてあんなに楽しい気持ちになれていたのだろう。今考えるとよくわからない。