大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

 荷造りはハンナがテキパキと進めてくれて、私が封筒に封蝋を押している間に準備は終わってしまったらしい。
 元々この土地に来た時と同じ、トランク二つ分だけしかなかった。
 旦那様が贈ってくれたものはアクセサリー、ドレスもあったが忙しくて殆どクローゼットの肥やしになっていたので、領地の復興のため予算が足りない場合には、これらのドレスや宝石を売ってなんとか資金を作っていた。だから、この手に残ったものはない。

 新規事業は初期投資が必要だったので旦那様に手紙を送ったのだが、資金が期日までに届くことはなかったのを思い出す。その時は「旦那様は忙しいのだから」とポジティブに捉えていた昔の自分がいかに盲目だったのか、今の自分は少し客観的にみてそう思った。
 旦那様は、私自身に興味があったわけじゃない。
 今になって優しくなるのも、領地経営ができる存在を惜しんでいるから。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 三年前ならいざ知らず、現在領地経営は軌道に乗って上手くいっている。私の手が離れても大丈夫なぐらいにはなっているもの。
 それも旦那様は分かっているから、私の負担の減らすと言いながら、領地経営権を自分に移すつもりだったのかもしれない。だからこそ私に優しく接して、時間を作ってくれた?
 違うと思おうとしても、一度生じた疑念はみるみるうちに増長していく。

 要塞のような屋敷。
 領地経営が上手くいっていない土地。
 今まで屋敷にあまり戻られなかった旦那様。
 大切にされていたわけでも、愛されていたからでもなく、ただ都合よく利用されていただけ。
 旦那様が裏社会のボスだとも、《王家の番犬》だというのも私には一度も話をしてくださらなかった。弱音も、笑顔さえ──。

(どうして気付かなかったのかしら? 愛されていないと気付かないままだったら幸せだったかしら?)

 事実を知っても胸の痛みはなかった。苦しくてつらいという感情が、麻痺してしまっただろうか。
 とても不思議だ。
 結んでいたリボンが解けたように、繋がりが切れたような感覚。
 私がこんな状態だからかベアトやアイリスが心配して、屋敷(ここ)から離れようと言い出したのかもしれない。

 それからハンナに「ベアトリーチェとアイリスの宿泊するホテルに泊まる」と執事(ジェフ)に伝えて貰い、私たち三人は王妃専用馬車に乗せてもらい早々に屋敷を出立した。
 旦那様はいなかったのか引き留めることもなく、あっけない形で私は王都に戻った。
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