大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

第11話 絶望の幕が上がる

 王都に戻ってきて数日はベアト、アイリスと王都巡りを堪能した。高級ホテルに三人で泊まり、三年という時間を埋めるように私たちはいろんなことを話して、笑い合った。
 こんなに声を上げて笑ったのは、いつぶりだろう。

 この数日の間に、旦那様からの連絡や接触はなかった。了承を得ずに飛び出したことを怒っているだろうか。けれどもう悲しくはなかったし、苦しくもなかった。
 吹っ切れた──とは違うと思う。

 私の中で発芽したナニカは旦那様、ベルナルド様への思いを全て吸収していったのだから。
 肩の荷が下りたというか、どうしてあそこまで自分は彼に尽くしていたのか、どうして近くに居ようと思ったのすら思い出せなくなってしなった。

(……私はどうして、あの生活を受け入れていたのかしら)

 彼との記憶は残っている。ただ彼への気持ちは消えて、自分のことが他人事のように俯瞰しているだけ。
 どうしてこうなってしまったのか、助けてほしいとは不思議と思えなかった。

(もしかしたら二人が言うように《擬似種子》の副作用? ルディー様ならこの原因がわかるかしら?)


 ***


 そんなある日、ベアトとアイリスと共にルディー様の屋敷を訪れた。
 本来なら彼が診察のため領地に来るはずだったのだが、仕事が立て込んでスケジュール調整が難しかったらしい。それもあってベアトたちは、私を王都に引っ張り出したのだと教えてくれた。
 昔から親友の行動力と人脈はすごい。改めて友人に恵まれたと感謝した。

「ここがルディー様の屋敷……」
「なんだか幽霊(ホーンテッド)屋敷(マンション)みたいで不気味ね」
「あ。アタシも同じこと思った」

 ルディー様が指定した屋敷は、外観が真っ黒で霧に包まれた王都の外れにあり、周囲の黒々とした木々が余計に不気味に感じられた。
 本当に研究所兼自宅なのだろうか。
 手入れも最低限で、人の気配があまり感じられないことが余計に幽霊(ホーンテッド)屋敷(マンション)を彷彿とさせる。

(昔訪れたときはもっと綺麗で、金木犀の花が咲いていたような──)

 そう思って、はたと気付く。
 いつルディー様の屋敷に来ていたのだろう。何か忘れている記憶が脳裏を掠めたものの、すぐに霧散して消えてしまった。
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