大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
「シャーロット様、久し振り」
「お久しぶりです。ルディー様は、お変わりないようですね」
「そう……かな?」
昔と変わらず赤紫色の長い髪を無造作に結っていて、黒のタートルネックにズボン、白衣という格好は今も変わらないようだ。背丈はあるのだが、旦那様と比べると細見で病弱っぽくも見える。研究者特有なのかやや猫背なところや、柔らかな笑顔も昔と変わらない。
「今日はわざわざ足を運ばせてしまって、すみません」
「いいえ。こちらこそ忙しいのに、すみません」
「他の誰でもないシャーロット様のためなら構いませんよ。ささ、お茶を入れているので、一息ついてから診察をしましょう」
「はい」
屋敷の中は閑散としており、手入れも最低限だった。さらに使用人や研究所職員などの人が異様に少ないような気がする。
(なぜこんな場所で?)
「すみません……、疑問を持つのも無理はないでしょう。魔術師協会の見解として死の満開の可能性を視野に入れて、王都の外れの施設あるいは、建物を指定してきましてね。……本当に申し訳ないです」
「あ、そうだったのですね(そっか。今はもう殆どの人が死の満開を起こさないから、私の特例を警戒しているのね)」
「シャルに危険が迫るようなら、私とアイリスがなんとかしますわ」
「そうね」
「二人とも……ありがとうございます」
改めて二人が同行してくれたことに感謝した。
通された客間はシンプルだが清潔感があり、調度品も揃っている。ルディー様と向かい合わせになる形でソファに腰を下ろした。
テーブルには王都で有名なケーキやスコーン、クッキーなどの菓子に、紅茶は甘さ控えめのロイヤルミルクティーと中々に豪華だ。
「せっかくなので、領地に住まわれていたときのお話を聞かせてください」
「そんなに面白い話ではないのですが」
「かまいません」
にこにこと微笑むルディー様は、学院時代から何も変わっておわず王都に戻った途端、三年前に戻ったような感覚だった。
王都はディフラの舞台でありながら、濃厚な青春時代が脳裏に過る。
(入学式に……ああ、王都でのデートは結局、ベルナルド様とは一度も……いけなか……あれ?)
カップが床に落ちて砕ける音が耳に入った。
ハッとして意識を保とうとしたのだが、視界が揺らぎベアトとアイリスがソファにもられかかる姿が見える。
(え……な……)
抗えない眠気に襲われ、ソファの上に倒れ込んだ。
目を閉じる瞬間、ルディー様が艶然と笑ったような──気がした。
***
どのぐらい眠っていたのだろう。体を動かそうとした瞬間、じゃらじゃらと金属音が音を鳴らし、違和感を覚えた。
重たげな瞼を開くと、薄暗い部屋にオレンジ色のランプが揺れ踊り周囲を照らす。
「ん……」
「ああ、目覚めたかい」