大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

「旦那様なら仕事で隣国に行って半年が経っているでしょう。寂しいけれど遅くても《収穫祭》までには戻ってくるって昨日話していたじゃない。ふふ、おかしなハンナ」
「──ッ!」
「奥様……。いくつかお伺いしても?」
「ええ、構いませんわ」

 青ざめた顔で主治医が聞くので、私はできるだけ明るく答えた。もしかして急に倒れたことを気にしているのかしら。

「昨日……は、何をしていたのですか?」
「昨日? ……孤児院の寄付と手伝い。それから庭の手入れと、冬に向けての相談を執事(ジェフ)として……。それから……ああ、旦那様から手紙が来ていたわ」

 そう「数日後には戻る」と書かれていた。それが嬉しくて、旦那様が好きなクッキーを焼こうと思ったのだ。クッキーなら日持ちできるし、落ち着かない気持ちを紛らわすためでもあった。しかしそこで、その記憶は果たして昨日だったのか疑問が芽生えた。

「なるほど。奥様……私の手は見えていますか?」
「ええ、もちろん」
「ハンナの姿は?」

 質問の意図がわからないが、「見えているわ」とハンナに目を追って告げる。
 主治医は、生唾を飲み込み、

「では公爵様は?」
「だから旦那様は……」

 旦那様はいないのに、なぜ旦那様の話を出すのだろう。私は部屋を見渡してみるが()()()()()()()()()()()()()
 鈍い私でもこう何度も聞かれれば気づく。

「もしかして、旦那様がここにいるの?」

 私に質問に沈黙が返ってきた。
 二人とも答えないが、つまり──そういうことなのだろう。今の私は旦那様の姿が見えなくなってしまったのだ。
 ドウシテ?
< 4 / 59 >

この作品をシェア

pagetop