大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
「旦那様なら仕事で隣国に行って半年が経っているでしょう。寂しいけれど遅くても《収穫祭》までには戻ってくるって昨日話していたじゃない。ふふ、おかしなハンナ」
「──ッ!」
「奥様……。いくつかお伺いしても?」
「ええ、構いませんわ」
青ざめた顔で主治医が聞くので、私はできるだけ明るく答えた。もしかして急に倒れたことを気にしているのかしら。
「昨日……は、何をしていたのですか?」
「昨日? ……孤児院の寄付と手伝い。それから庭の手入れと、冬に向けての相談を執事として……。それから……ああ、旦那様から手紙が来ていたわ」
そう「数日後には戻る」と書かれていた。それが嬉しくて、旦那様が好きなクッキーを焼こうと思ったのだ。クッキーなら日持ちできるし、落ち着かない気持ちを紛らわすためでもあった。しかしそこで、その記憶は果たして昨日だったのか疑問が芽生えた。
「なるほど。奥様……私の手は見えていますか?」
「ええ、もちろん」
「ハンナの姿は?」
質問の意図がわからないが、「見えているわ」とハンナに目を追って告げる。
主治医は、生唾を飲み込み、
「では公爵様は?」
「だから旦那様は……」
旦那様はいないのに、なぜ旦那様の話を出すのだろう。私は部屋を見渡してみるが主治医とハンナ以外見えない。
鈍い私でもこう何度も聞かれれば気づく。
「もしかして、旦那様がここにいるの?」
私に質問に沈黙が返ってきた。
二人とも答えないが、つまり──そういうことなのだろう。今の私は旦那様の姿が見えなくなってしまったのだ。
ドウシテ?