大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

第3話 見えないけれどそこに居る

 旦那様の姿が見えない。
 最初は何かと冗談だと思いたかった。幸いにも旦那様の声は聞こえている。
 なんとも悪い夢を見ているような、そんな気分で主治医の話も何処か遠くの自分ではない誰かの話を聞いているような感覚だった。
 そうまるで他人事のよう。

「――とにかく、このような症状は今までに事例がありません。奥様は《魔法の種子》がない極めて特殊な体質です。この辺りに関しては魔法師協会の診察を受けてみてはいかがでしょう?」
「そう……ね。いろいろ試して見た方がいいと思うわ」

 そう答えるのが精一杯だった。
 たしかに医療魔法や薬学などは主治医の方が専門だが、魔力という一点においては魔法師協会の専門分野になる。
 旦那様の姿が見えない。
 それ以外は至って健康らしいので、今日は安静にして明日からは普通通り生活するのは問題ないという。

 主治医が部屋から出て行った後でハンナは椅子の方を睨んでいたが、すぐに私に向き直った。
 パタン、と扉の閉まった音が聞こえ「あれ? 主治医の先生は先に出ていったはず?」と閉じた扉を見つめた。

(もしかして旦那様がいた?)
「奥様、これは天啓だと思います」
「え? 天啓って……」
「この家に奥様、いえシャーロット様が嫁がれてから公爵様はずっと突慳貪(つっけんどん)で、夫としての必要最低限かつ義務的な態度ばかりじゃないですか! これはきっと花女神様のおぼし召しです。あんな方とは離縁してシャーロット様を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」
「ええ? ハンナ急にどうしたの?」

 彼女は首にかけていたペンダントを取り出し、花女神像の描かれた銀色のメダルのようなものをギュッと両手で握りしめた。忘れていたがハンナは敬虔な花女神信仰の信者で休みの日は教会に足を運んでいる。
 私も何度か教会や孤児院の寄付やチャリティーで訪れたことがあった。
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