大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

第16話 氷の貴公子ベルナルドの視点1

「これをお前に渡しておこう」

 十歳になった頃、父は銀の懐中時計を手渡してきた。思っていたよりも、ずっと重い。

「父様。ただの懐中時計とは違うように思えるのですが……」
「ああ、我が家で代々継承している特別魔導具だ。当主後に、一度だけ時間を巻き戻すことができる」

 我が家の魔法は氷華系だと思われているが、実際は時を凍結するものだったりする。それゆえ時を戻すという言葉も、さほど驚きはしなかった。

「そうですか。……では国家の危機の際に使えと?」
「違う。好きな女の危機に対してだ、馬鹿者!」

 父様は激高し、ゲンコツを一つもらうはめになった。この国の裏社会を牛耳る男は、陰鬱で冷酷とはまるで正反対の熱血漢だった。仁義に厚く、人情深く涙もろい愛妻家。筋骨隆々で背丈が百八十の父に対して小柄な母は超絶美人であり、端から見て美女と野獣である。しかしこの夫婦は、年中新婚かと思うような熱愛ぶりをみせるのだ。息子の前でも。

「ふふふ、お父様も私と出会うまでは、とーっても無愛想で全く笑わなかったんですよ」
「嘘ですね」
「嘘じゃない。あれは君が空から吹っ飛んできた時か」
「ええ。没落令嬢として身売りに出されそうだったから、死ぬつもりで三階から飛び降りたときですね」
「あの時の君、君を受け止められて本当によかったよ」
「まあ、アナタったら」

 二人の馴れそめを聞くのは、これで何百回目になるだろうか。愛する人が見つかるだけで世界は変わる、と父様はよく言っていた。

 そんな両親は俺が十五歳の魔法学院在学中に亡くなった。馬車が転倒し崖から落ちたという。丸くなったとはいえ、今までに様々な人の命を奪ったのだ、まともな死に方はしないだろうとは思っていた。
 両親は「そんなことはない」と言っていたが、結果は変わらない。
< 49 / 59 >

この作品をシェア

pagetop