大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで

 ルフス聖王国では多神教が認められているが、その中でも人気なのが花女神信仰と精霊信仰の二つだ。
 花女神カーディナルは貧困に喘ぐ人々の暮らしぶりを見て「助けになるように」と《魔法の種子》を与え、それを口にした人々は次々に《魔法》という神の権能の一つを獲得するに至った。魔法の種類も個人差があり魔力量も適性というのがあったのだろう。

 魔法の存在によって文明が一気に発展し、花女神信仰は《叡智と豊穣》の象徴として王侯貴族から庶民に至るまで浸透していった。
 もっとも《叡智と豊穣》から人々に親しみやすいよう《商売繁盛、運気アップ、恋愛成就》などと即物的な説き方に変わっていき、ペンダントやらアクセサリーと身につけられるようなものも売り出すようになったのはここ最近である。

「私は幼少からシャーロット様のお世話係をしてきましたが、奥様には絶対に幸せになってほしいのです」
「ハンナ。……ありがとう」
「で・す・か・ら、学生時代からずっとあの男を思い続けているシャーロット様が不憫でなりませんでした。婚約して、結婚すればシャーロット様を大事にするかと思えば!」

 ハンナは私の代わりに怒ってくれて口汚い言葉も使っていたが、今回はそこに触れずに笑って誤魔化す。

「シャーロット様、この際実家に戻りましょう! こんな所ではますます心が休まらないでしょうし、静養なんてとてもできません!」
「そんな大げさだわ。最近、チャリティーの準備で忙しかっただけだから心配しないで」
「シャーロット様!」

 大げさなハンナに私は「とりあえず顔を洗いたいから準備をしてくれる?」と言ってお湯の準備をしてもらった。今日は仕事をすべてキャンセルして読みたかった本を読んで一日過ごすのもいいのかもしれない。

(旦那様が帰ってきているのにお姿が見えないなんて……どうしてこんなことになったのかしら)

 私はため息を漏らさずにはいられなかった。
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