大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
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軽めの食事を取った後で執事のジェフが姿を見せた。私はベッドから起き上がり、薄手のカーディガンを羽織る。ジェフを部屋に迎え入れたときに心なしかハンナの表情が強ばったような気がした。
(もしかして──)
「ハンナ、お前はお茶の用意をお願いします」
「……承知しました」
不服そうにしつつ部屋を退出するハンナを見送った後、ジェフは丸いテーブルと椅子を出してお茶の準備をしていく。不思議に思ったのは椅子が二つ用意されたことだ。
「奥様、先ほどと変わらず旦那様の姿は見えないでしょうか?」
(やっぱり。だからハンナはいい顔をしなかったのね)
私は部屋を見渡すが旦那様の姿はない。
ただ目を凝らすと小さな花束が浮いている。白い花でラッピングが可愛くされていた。
「花束? もしかしてそこに旦那様がいるのですか?」
「! ああ!」
思わず告げた言葉にジェフは振り返り、私と同じく花束の方へ視線を向ける。
やっぱりそこに旦那様がいるのだろう。
剃刀のような鋭い視線、感情を削ぎ落としたような顔が懐かしい。眉間に皺を寄せて世界中の面倒ごとを一心に背負ったような──そんな旦那様が好きだった。
「改めてシャルと話がしたいのだが、いいか?」
「まあ。そうだったのですね! 旦那様、せっかく屋敷に戻ってくださったのに出迎えができなくて申し訳ありません」
私の好きなバリトンの声にうっとりとした気持ちになりかけたが、慌てて花束のある方に向かって頭を下げた。
僅かな沈黙の後、旦那様は声を発した。
「気にするな。……しばらくは屋敷に滞在して、できるだけシャルの傍にいよう」
「旦那様が!? ……あ、それは嬉しいですけれど、お仕事の方は?」
「問題ない」
「旦那様、もう少し言いようが……」
「うるさい」