僕の愛しい泥棒娘
男だと思っていたのは女だったのだ。亜麻色
の髪を一本に編み込んだものが背中に流れ
落ちた。

体つきも華奢で背は女性にしては少し高いが
細くてでも丸みのある体形はまさに女性だ。

どうして男だと思ったのか自分でもわから
なかったが,塀から飛び降りてきたその俊敏
な動作に男だと思ったのだろう。

その時雲が切れて月の光が彼女の姿を照らし
た。その横顔は端正で凛とした美しさをまと
っている。その横顔に見惚れた。

長い睫毛が頬に影を落としている。彼女は顔
を上げて月をしばらく見つめ何事か呟いた。

月に照らされた横顔は陰影が濃く彼女の神秘
的な美しさを照らし出している。

アウスレッドは彼女の側に行きそっと抱きし
めたいと思った自分に戸惑った。

彼女はさっと身を翻すと、また音もなく走り
出した。全く猫のように俊敏でまるで

地面の上をすべるように走っていく。
走るのも早い。

アウスレッドは自身も最大限努力をして足音
を立てず彼女に遅れないようにと必死でつい
て行った。

王都の商店街の1本入った道に彼女の姿が
消えた。

アウスレッドは慌てて彼女の消えた辺りに駆け
寄ってみると、そこは”シャウルー“と掛かれた
看板が上がっている雑貨屋のようだった。

彼女は確かにここに消えた。

アウスレッドは彼女ならワイナリー公爵家に
忍び込んでテイアラを取り返す事ができると
確信した。

後はどうしても彼女にその仕事をしてもらう
のを了承してもらわなければならない。

交渉事ならアウスレッドは得意だ。

八方塞がりになっていた状況に少し光明を
見いだせたアウスレッドは足取りも軽く実家
に帰るべく馬を繋いでおいた場所に向かって
歩を進めた。
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