甘く苦く君を思う
その間「大丈夫、大丈夫」と言いさすり続けてくれた。
ようやく涙が止まり、私は恥ずかしさに顔を赤らめてると端にひと席だけあるイートインスペースに麦茶を持ってきてくれた。
泣きすぎてカラカラになった体に染み込んでくる。

「ケーキは何にする? おばあちゃんが今日は特別にご馳走するわ」

「いえ。そんな訳には……」

「赤ちゃんにご馳走するのよ、だから気にしないで」

笑って話す女性の顔の皺になんだかホッとさせられてしまう。おすすめされたいちごのタルトをいただくとタルト生地とカスタード、生クリームの配分が絶妙でとても美味しい。いちごの酸味とのバランスが合っておりひとつあっという間に食べてしまった。

「ご馳走さまでした」

「はい、どういたしまして」

立ち上がると改めて頭を下げた。こんな優しい気持ちに触れたのは久しぶりだ。ここに住んでからは誰とも話していなかったのもあり、気持ちが少し明るくなれたように思った。

「あの、この近くに知り合いもいないんです。だから……またここにきてもいいですか?」

「あら、もちろんよ。こんなおばあちゃんでよければ話相手になってちょうだいな。本当はそろそろ引退したいんだけど人がいなくてここにいるの」

「それなら私が少しだけお手伝いしてはダメですか? 元々パティスリーで働いていたので箱に詰めるのもできます」

ついそんなことを力説してしまった。すると女性は驚いたような表情をしていた。\

「でもお給料がそんなに出せないのよ」

「入りません。私の話相手に少しだけなっていただけると嬉しいんです。こんなお腹なのでお給料をもらえるほどの仕事はできませんから」

この甘い匂いの中でまた過ごせると考えたら気分が高揚してきた。それに彼女と話していて本当に癒されたのが大きかった。こんな状態でお願いするのは迷惑かもしれないが、断らないで、と強く手を握り締めた。
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