甘く苦く君を思う
「あら、パティシエールさんなの? それは素敵ね。お給料は本当に少ししか出せないけど、よかったらいらっしゃいな」

その言葉に握り締めた手がぱっと開く。

「ありがとうございます!」

さっきまでメソメソ泣いていたのが嘘のよう。満々の笑みを浮かべると今更だけど自己紹介をした。

「相川沙夜と申します。つい数ヶ月前まで東京で働いていました。3年少し修行をしていました」

横井(よこい)幸子(さちこ)です。主人とふたりでこのマリーをもう40年やっているのよ」

そんな話をしていたら厨房の方から男性が出てきた。

「あら、主人がきたわ。ねぇ、あなた。この子がお手伝いに来てくれるっていうのよ。東京のパティシエールだったそうよ」

「そら、すごいなって。こんな小さな寂れた店の手伝いなんていいのかい?」

幸子さんと同じように少しだけ皺の入った顔が笑うと余計にくしゃっとして優しさが滲み出ていた。

「もちろんです。妊娠しているのでそんなにはお役に立てないかもしれないですが、是非ここに来させてください」

旦那さんにも頭を下げると、喜んで、と言ってもらえた。
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