甘く苦く君を思う
翌日からここに通い始めて気がついたが、マリーは人気店だった。バースデーケーキは毎日何台も予約が入っている。それに毎日ひとりでケーキを作っているのにかなりの数のケーキを作っており、驚かされる。1種類の数は少なくても、とにかく品数が多いのでとても大変だろう。「ル・ソレイユ」はパティシエが常時8人で作業をしていた。近くのホテルに卸していたのもあるが、それぞれ分担し作業にあたっていたので、ご主人のように毎日何種類も仕上げていくなんて空いた口が塞がらない。
最初こそカウンターに立ち、お客さんのオーダーを聞き箱詰めをしていたが、徐々に厨房の手伝いも始めてしまった。

「沙夜ちゃん、シュー生地にカスタード入れて」

「沙夜ちゃん、タルトにナパージュして」

「沙夜ちゃん……」

何度もご主人に名前を呼ばれては厨房に入るのでいつの間にか私はコックコートを着るようになっていた。

「ちょっと、あなたの手伝いじゃなくて私の手伝いに沙夜ちゃんをスカウトしたのにどうしてそっちで呼ぶのよ」

幸子さんが厨房に顔を出すとご主人に文句を言うが、笑って聞く耳を持たない。

「お腹は張っていない?」

心配そうに声をかけてくれ、きっと厨房で立ち仕事になってしまうのが気がかりなのだろう。それを聞いてご主人もハッとしたようだ。

「すまない、すまない。つい沙夜ちゃんに頼んじゃって」

「全然大丈夫です。むしろ楽しくて仕方ないですから」

「絶対に無理いないでくれよ」
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