甘く苦く君を思う
***
店のドアベルが鳴るとビクッと入り口を見てしまう。そして予想通り彼は店にやってきた。
もう関わりたくないと思っているが、彼がまた訪れるのではないかと正直、思っていた。

「いらっしゃいませ」

冷静を保つよう心がけ、他のお客さんと同じように接客した。彼はショートケーキとベリーのタルトを1つずつ注文する。私が箱に詰めている間、会話は交わさないがじっと見られている視線を感じていた。
お会計を済ませると彼は何も言わずに帰っていった。
はぁ、と大きくため息が漏れてしまう。なぜ彼はここに来たのだろうか。
何も話さなかったのはホッとしたが、彼の行動がわからない。
そしてまた数日後、彼はやってきた。
今日は日曜で私は半日勤務。保育園も休みのためお店に連れて来ている。
渚は赤ちゃんの頃からここにいるので祖父母の家に来ているような感じなのだろう。店の片隅にある椅子に座ると、お絵描きをしたり、絵本を読んだりして過ごしている。横井さん夫妻に時折遊んでもらうと上機嫌になり歌を歌ったりとかなり奔放な性格のようだ。
私も目の届くところにいてくれたら安心していられるので、この職場環境には感謝しかない。
午前のうちにご主人とあらかたのケーキは仕込んでしまうため大忙しだ。でも半日で終わるので渚のためにはありがたい。
今日も仕事の後に公園に行く約束をしている。
厨房で計量を繰り返しては成形、焼成を行っているとお店から笑い声が聞こえてきた。
幸子さんに遊んでもらっているのだろうと思い込み早く作業を終わらせなければと集中していた。
そして気がつくと渚は昴さんと話しており、ハッとした。
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