甘く苦く君を思う
***
今日お店に行って本当によかった。渚ちゃんの熱に気が付くことができ、病院に付き添うことができた。
薄々感じてはいたが彼女は結婚していなかった。渚ちゃんの体調不良に薄々気が付いていても沙夜は働かなければならないのだろうと思うとなんだか胸が苦しくなる。
彼女たちを家に送り届けたあとも車を出せずにしばらく留まっていた。
さやの言葉、渚ちゃんの寝顔、そしてあの日の記憶が次々に蘇る。
(あの日、沙夜は封筒を俺に返した。なんの迷いもなくはっきりと)
そうだ、彼女は封筒を受け取ったわけではなかったのだ。両親に封筒を押し付けられたのだろう。
それなのになぜか自分は「受け取ったらしい」と言う周囲の言葉を信じてしまった。押し付けられたのと受け取ったのでは雲泥の差がある。
自分の弱さや臆病さが全ての原因だ。
どうして沙夜に自分の立場を最初から言わなかったのか今となっては後悔しかない。沙夜に、自分のことも教えてももらえないほどに私はあなたにとって信用に足る存在ではなかったってことでしょうと言われ、果てしない後悔に襲われた。そんな訳ない。彼女を心から大切に思っていた。だからこそこの俺の背中に乗る大きなものを彼女に言い出しにくかった。彼女が俺のそばから離れてしまうのが怖かった。でも言わなかったせいで自分の信用を失うことになるなんて俺は本当に大馬鹿野郎だ。

「確かめなきゃならない……」

沙夜がどうしてあの日、あんなに悲しそうに笑っていたのか。
俺は知りたい、そして2度と同じ過ちを犯したくない。

すぐに信頼できる部下に電話をかけた。

「3年前、相川沙夜が店を辞めた時のことを調べて欲しい」

その言葉に部下は驚いたようだったが、口には出さず「承知しました」とだけ言うと電話を切った。
過去を追えばきっと痛みも甦る。それでももう逃げるわけにはいかない。
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