甘く苦く君を思う
「突然すまない……。渚ちゃんのことが心配で」

彼は気まずそうに頭を下げた。

「いえ、こちらこそ昨日はありがとうございました」

昨日の病院でのことを思い出すと恥ずかしくなってしまう。彼がいなければあんなに冷静に動けなかったかもしれない。
情けないところ見られてしまったこともあり、その後の会話が続かない。

「……気にしないで欲しい。俺がしたかっただけだ」

また落ちた沈黙に渚が彼のスーツの袖を引っ張った…

「ねぇ、おじちゃんもご飯食べる?」

その言葉に慌てて渚を止めようとしたが、彼はふっと笑ってしゃがみこむと渚と同じ目線に合わせてくれていた。

「誘ってくれてありがとう。でも今日はね、用事があるんだ」

そう話す彼の言葉に、渚ががっかりしたような表情を浮かべていた。

「また今度な。その時はままにも聞いていいって許してもらってからな」

すると渚の目がぱっと輝いて笑顔に戻った。

「ほんと? やくそくだよ」

小さな小指が彼の指に無邪気に絡めている。その光景を見て胸が押しつぶされそうになる。
渚は普段少し恥ずかしがり屋で、特に男の人と話すときは隠れることの方が多いのになぜか彼にだけは迷いなく心を開いている。どうしてこんなに懐いてしまうのだろう。彼が父親だという真実を子供自身がどこか感じとっているのではないかとそんな錯覚に襲われる。彼も渚が彼の子供だと告げていないのにこんなにも距離が近い。このふたりの関係に、見ていてなぜか胸がざわつく。
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