甘く苦く君を思う
***
部下から追加の報告を受け俺は頭を抱えた。

「やはりご両親が相川さんに接触したのは間違いないようです。金銭もその時に渡したのだと思われます。その場にはおふたりしかいなかったので正確にはわかりませんが、運転手の記録には相川さんの自宅への送迎の記載がありました」

「そうか」

「そして、噂の出所ですが、どうやら秘書のひとりが絡んでいるようです。ル・ソレイユの商品を受け取っている部署にさりげなく噂話として彼女の話を流し始めたようです。パティシエールが高倉グループの跡取りと付き合っていたが、両親にお金の無心をしたなどといったことも流したようですね」

クソッと思わず口をついて出た言葉と共に机を叩いてしまった。
沙夜がそんなことをする訳がないじゃないか。
俺の様子を見ながらもらった部下は報告を続ける。

「金銭に関しての噂が多く、お金の無心をしたと言ったことやあなたにも色々とねだっていたこと、それを見かねてご両親がお金を渡して解決させたなどの話が出て来ました。うちにも入っている食品業者などにも話が流れ、同業者を使っていたル・ソレイユの内部にまで
広がっていったようです。そういった噂話はどこでもすぐに面白おかしく広まるものですから、好奇の目に晒されたことでしょう」

聞けば聞くほど沙夜の風当たりは強かったことだろう。そんな中にひとり沙夜が立たされていたかと思うと気分が悪くなる。

「ありがとう」

「いえ……。それで、体調を崩されたのかそれを理由に突然の退職になっています。そのせいもあり、彼女は退職金など一切受け取ることができなかったようです。東京からも逃げるようにあっという間に引っ越しをされ、今のお住まいに移られたようです」

大きく息を吐くと部下にお礼をいった。すると彼は差し出がましいようですが、と前置きをしてさらに言葉を繋いだ。
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