甘く苦く君を思う
***

「本当に申し訳ありませんでした」

彼が私の両親に挨拶に行くことになった。家に向かう車の中でもずっと緊張を隠せず、渚に話かけられてもうわの空だった。こんな様子の彼を見るのは初めてで、私まで緊張感が移ってしまう。
家につき、母がドアを開けてくれた瞬間、彼は大きな声でいきなり謝り、頭を下げていた。
その様子に母は驚き、後ろで顔を出した父も固まっていた。

「えっと……、ひとまず家に上がってください」

ようやく母が声を発し、彼も頭を上げると玄関を上がる。
私も渚の手を引き玄関に入ると、さっと靴を脱いだ渚はタタタッと走ってリビングへ行ってしまった。

「じぃじー」

向こうから父に甘える渚の声が聞こえてきた。そして孫に甘い父の声も聞こえてくる。

「渚ちゃん、元気かい?」

「うん! おみやげあるよ」

するとバッグにしまっていた絵を渡していた。書かれているのはただの丸に毛が生えているもので、傍目には何かわからないものだが、父は孫からもらえるものはなんでも嬉しいようだ。そのくらい渚にメロメロになっている。
その様子にリビングの入り口で昴さんは固まったままになっていた。

「あの……どうぞ、お座りになって」

母は気まずそうに彼にソファへ座るよう促した。けれど彼は父の前に正座で座ることを決めたようだ。
父の前の低い位置で父に向かい頭を下げる。

「私が至らないばかりに彼女の大変な苦労をさせてしまいました。申し訳ありませんでした」

床に頭を付け、彼は父に向かい頭を下げる。
その異様な光景に渚は驚いたようだ。

「おじちゃん?」

「君、今は頭をあげなさい。渚ちゃんが不安そうにしているじゃないか」

彼が頭を上げると渚はすぐに抱きついていた。そしてなぜか彼の頭を一生懸命に撫でている。

「大丈夫だよ」

そういうと彼は渚のことを抱き寄せていた。彼は母に促され、渚を抱いたままソファに移動した。そして隣に座らせると名刺を取り出し、父に渡す。

「高倉昴と申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」

父は名刺を受け取ると少し驚いたような様子を見せた。そして渚の手前もあるのか穏やかな口調で話をし始めた。

「なぜうちの娘と?」

「偶然だったんです。たまたま彼女と知り合い、惹かれました。でもすれ違ってしまい傷つけてしまった。私は彼女からの信頼も彼女自身も全て失ってしまいました。毎日後悔の日々を過ごしてきました。そしてまた再会することができ、また彼女に惹かれた。もう後悔はしたくないんです」

切実なその言葉に私の胸も打たれる。
< 90 / 105 >

この作品をシェア

pagetop