甘く苦く君を思う
「娘は、沙夜は何もかもなくしてどれだけ辛い日々を過ごしてきたか君にはわかるか?」

怒気を含む声に父の感情の昂りを感じる。
両親とはどこか疎遠になりがちだったが、そんな中でもいつも私のことを考えてくれていた父。いつだって口には出さないが、母を介して心配してくれているのがわかっていた。
父にとって昴さんは娘を不幸にした張本人とでも思っているのだと感じた。
私が口を挟もうすると無言で彼に遮られる。

「申し訳ありません」

「謝って済むような話じゃない」

静かに怒りを口にする父に私も母も口を出せなかった。

「すみませんでした」

彼はただひたすら謝罪を口にし、ソファに座りながら膝に手をつき何度も頭を下げていた。
その様子に渚は驚いたのか、横から彼の顔を覗き込む。

「おじちゃん?」

彼は横を向くと渚の頭をそっと撫でる。そんな様子を見てようやく母が父に声をかけた。

「お父さん、そんなんじゃ渚ちゃんに嫌われちゃうわよ」

「でも、沙夜を傷つけたんだぞ」

「そうね。お父さんは沙夜のことも可愛いものね。でも沙夜も納得したからここに連れてきたんでしょう」

その言葉に私は頷いた。
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