甘く苦く君を思う
とうとう来てしまった日曜日。
私は紺のパンツスーツに白のカットソーを合わせ、リクルートのような格好になってしまった。昴さんにもっとラフでいいと言われたが、今日だけはきちんとしたかった。それに合わせたように彼もスーツを着ることに決めたようだ。
渚は水色のワンピースに白いボレロを着ており、自分の中ではプリンセススタイルと思っているお気に入りの服だ。

「……さ、そろそろ出るか」

私は無言で頷く。

「いくよー」

その声に彼は渚を抱き上げた。そして車のキーを持つと私の手を握る。その手を私もぎゅっと握り返した。彼の顔を見上げるとまた頷いた。

車の中では渚が保育園で習った歌を披露してくれ、私の緊張をほんの少し和らげてくれる。
でも車はあっという間に彼の実家に到着してしまった。
初めて訪れた実家は門から入ってもなお車で玄関まで行くほどの広い敷地。ここが東京の都心であることを忘れてしまうくらいだ。
圧倒されて何も言葉が出てこなかったが、渚に「おしろ?」と言われ思わず笑ってしまう。
玄関前につけられた車のエンジン音を聞いて中からお義母さんが出てきた。

「待ってたのよ。いらっしゃい」

少し強張ったような表情を浮かべつつ私たちを中に案内してくれた。
私は渚の手をぎゅっと握ると、渚も不安に感じたのか私の足元にしがみついてきた。私は抱き上げると強く抱きしめた。そして、小さな声で「大丈夫、大丈夫」と自分にも言いいかせるように呟く。
リビングには彼のお義父さんが座って待っていたが、私たちが部屋に入るのを見て立ち上がった。

「いらっしゃい」

気まずそうな声に私は小さく会釈した。

「……おじゃまします。娘の渚です。渚、こんにちはってできる?」

私にしがみついたままだが、渚はお義父さんを見て「こんにちは」と小さな声で伝えた。

「こんにちは。渚ちゃんは何歳かな?」

少し表情を和らげたお義父さんが渚に優しく声をかけると、指を二本出す。

「2歳か」

その質問でさえこの子の出生を確認されているようで私の表情は固くなる。
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