陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
3章: 彼女の真実
 翌日、昼休み。
 
 静かなシステム部に、コツコツとヒールの音が響いた。


 「星川〜、行くよ!」


 いきなり名指しされ、キーボードを叩いていた手が止まる。星川は目を見開いた。


 「……は? 俺が?」


 怪訝な顔をする星川を、有無を言わせぬ勢いで夏來が腕を掴む。


 「ちょ、ちょっと待て。誘拐かよ」


 そのままエレベーターへ。待ち時間に夏來がさらりと告げる。


 「ベーグルサンドのカフェでランチするよ」

 「却下」

 「えぇ!? 即答!?」

 「俺に野菜サンドか? 罰ゲームかよ」

 「ち、違うし! おいしいんだから!」

 「監視か? ……まあいい。俺はラーメン屋」


 (カフェなんか行くか。女ウケ狙いの場所なんて死んでもごめんだ──天城セイラだってバレないようにな)


 「えーーっ!? ラーメン!?」

 「……嫌なら降りろ」


 ぷぅと頬をふくらませる夏來。星川はニヤリと口角を上げ、二人はそのままエレベーターに乗り込んだ。



 ラーメン屋を出ると、二人はテイクアウトコーヒーを手に大通りを抜け、池の公園へ。
会話はない。けれど、その沈黙がなぜか心地よかった。

 十月末。日中はコートなしでも十分に暖かい。

 池では観光客がカラフルなスワンボートを漕ぎ、秋の光が水面できらめいている。風が吹くたびに落ち葉がひらひらと舞い、カサリと音を立てて足元をかすめた。

 動物園が近いせいか、遠くでは子どもの笑い声が混じり、都会の真ん中なのに不思議とのんびりした空気が流れている。どこか異世界へ迷い込んだような錯覚に陥るほど。

 ベンチに並んで腰掛ける。夏來はラテをひと口飲み、視線を池に向けたままぽつりと呟いた。


 「ラーメン、久しぶりだったけど、美味しかった」

 「……だろ。女子供に迎合(げいごう)しない店は当たりだ。また行こうぜ」


 声に柔らかな笑みが混じる。その響きに、夏來の胸がトクンと静かに鳴った。

 (どうしてだろう、こいつといると鼓動が乱れる)


 「そういえば、おまえ、どんなアニメ好きなんだ?」

 「えっ? アニメ? 別に好きじゃないけど」

 「は? 嘘だな。……じゃあ、あのキーチェーンは?」


 (げっ、やっぱり見られてた……!)

 ばつが悪そうに声を小さくした。


 「ただ……原作の小説が好きで、それで……」

 「へぇ、小説オタか。妙に納得だな」


 短く放たれる一言。その視線が前髪の奥から突き刺さるようで、夏來は思わず目を逸らした。
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