陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
(やっば……こいつに見られた時点で、運の尽きか?)
観念したように、夏來はぽつりぽつりと語り出した。池に揺れる光を、目を細めて追いながら。
「原作者でラノベ恋愛小説家の天城セイラ先生のファンなの。デビュー以来ずっと……。とくに『流星5』。救われたって言ってもいいくらい」
「……」
星川の眉がピクリと動く。だが前髪のおかげで、その驚きは夏來に知られていない。
(デビュー当時から……? ただのアニメオタクじゃなかったのか)
ますます興味が膨らみ、彼は静かに耳を傾けた。作家としての洞察が動いた瞬間だった。
「……うちの村ね、男尊女卑がひどくて。母なんか、男の子を産めなかったって、ずっと責められてたの。そのイライラをあたしにぶつけてきて」
「……昭和の化石かよ」
(こんな話、大学時代の友達にすらしてないのに……。なんでだろう、心の詰まりがほどけていくみたい)
夏來は遠くを見つめながら過去を語り続ける。
「東京での大学時代、精神的に弱ったの。そんな時に天城セイラ先生のデビュー作『流星5』に出会った。特に作中に描かれていた歌詞に助けられたの。……今でも、あれはあたしの支え」
星川にとって、夏來はこれまで『気の強いタカビー麻生』。先週末に偶然見てしまった、推し活オタクの裏の顔。そして今は、デビュー当時からの天城セイラファン。
しかも、その『セイラ』こそが彼の裏の顔だ。
(こいつが尖ってる理由……。がむしゃらに仕事して、気を張ってるのは、過去の傷のせいか)
「実はね、先週末、『流星5』のアニメライブがあったの。気分よく帰宅したら、母親から電話。……出た瞬間に出てきた言葉は文句よ」
夏來は苦笑して続ける。
「『あんた、いつになったら結婚するのよ! あんたのこと聞かれると恥ずかしいのよ。こっちは肩身が狭いんだからね!』だってさ」
『ハァァー……』と彼女の口から、長い息がこぼれた。
「……あんなふうにギャーギャー言われるくらいなら、もう結婚なんてしないでいいわ」
冗談めかして笑ったが、星川の前髪に隠れた目が一瞬鋭さを帯びる。
「……しない、ねえ」
(結婚しない、か……。親に反発してるだけだな。だが本気で好きになったら、きっと追いかけずにいられない女だ。松本主任のときも、そうだったんだろう)
観念したように、夏來はぽつりぽつりと語り出した。池に揺れる光を、目を細めて追いながら。
「原作者でラノベ恋愛小説家の天城セイラ先生のファンなの。デビュー以来ずっと……。とくに『流星5』。救われたって言ってもいいくらい」
「……」
星川の眉がピクリと動く。だが前髪のおかげで、その驚きは夏來に知られていない。
(デビュー当時から……? ただのアニメオタクじゃなかったのか)
ますます興味が膨らみ、彼は静かに耳を傾けた。作家としての洞察が動いた瞬間だった。
「……うちの村ね、男尊女卑がひどくて。母なんか、男の子を産めなかったって、ずっと責められてたの。そのイライラをあたしにぶつけてきて」
「……昭和の化石かよ」
(こんな話、大学時代の友達にすらしてないのに……。なんでだろう、心の詰まりがほどけていくみたい)
夏來は遠くを見つめながら過去を語り続ける。
「東京での大学時代、精神的に弱ったの。そんな時に天城セイラ先生のデビュー作『流星5』に出会った。特に作中に描かれていた歌詞に助けられたの。……今でも、あれはあたしの支え」
星川にとって、夏來はこれまで『気の強いタカビー麻生』。先週末に偶然見てしまった、推し活オタクの裏の顔。そして今は、デビュー当時からの天城セイラファン。
しかも、その『セイラ』こそが彼の裏の顔だ。
(こいつが尖ってる理由……。がむしゃらに仕事して、気を張ってるのは、過去の傷のせいか)
「実はね、先週末、『流星5』のアニメライブがあったの。気分よく帰宅したら、母親から電話。……出た瞬間に出てきた言葉は文句よ」
夏來は苦笑して続ける。
「『あんた、いつになったら結婚するのよ! あんたのこと聞かれると恥ずかしいのよ。こっちは肩身が狭いんだからね!』だってさ」
『ハァァー……』と彼女の口から、長い息がこぼれた。
「……あんなふうにギャーギャー言われるくらいなら、もう結婚なんてしないでいいわ」
冗談めかして笑ったが、星川の前髪に隠れた目が一瞬鋭さを帯びる。
「……しない、ねえ」
(結婚しない、か……。親に反発してるだけだな。だが本気で好きになったら、きっと追いかけずにいられない女だ。松本主任のときも、そうだったんだろう)