陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
4章: ひび割れた仮面
 数週間が過ぎ、十一月の半ば。紅葉はまさに見頃を迎え、街は冬の気配をまとい始めていた。厚手のセーターが恋しくなる日も、ちらほらと混じる。



 あれから二人の距離はさらに縮まっていった。夏來が外回りに出ない日は、ほとんど決まって一緒に昼を食べる。時には仕事終わりに夕飯を囲むこともあった。牛丼屋やラーメン屋など、彼女には縁遠い店に連れ出されるのも珍しくない。

 互いの存在は、気づけば日常の一部になっていた。会話がなくても心地よく過ごせる──ただの同期から、それ以上でも以下でもない、微妙な距離感のまま。この関係を壊したくないという思いが、二人をその先に踏み出させなかった。



 その日、夏來は朝から外回りに出ていた。
営業部のフロアに戻ってきたのは終業間際。
デスクに座り、キーボードを叩いて報告書をまとめる。喉の渇きにせかされるように、打つ手が速くなる。

 (あぁ……コーヒー飲みたい)



 一方その頃、七階システム部。

 星川は修理から戻ったタブレットへのデータ移行を終え、壁の時計に視線を向ける。
ブルーライトメガネを外し、目頭を押さえて深く息をついた。

 (ふぅ……終わったか。この時間なら麻生も戻ってるな)

 目を休めてからタブレットを手に取り、エレベーターへ。だが、メガネはデスクに置き忘れたままだった。



 営業部をのぞくと、夏來の姿はない。
他の社員から『給湯室にいる』と聞き、そちらへ向かう。

 廊下を進むと、不意に、耳へ刺さるような男の声が届いた。小馬鹿にした調子で、冷笑を含んだとげとげしい声。

 (あいつか……?)

 胸騒ぎに足が速まる。閉まりきらない給湯室のドアが目に入った。

 (やることがいつも中途半端なんだよ、あいつは)

 星川は足を止め、ポケットから携帯を取り出す。録音機能を素早く起動させ、胸ポケットに忍ばせた。隙間からのぞくと、男が夏來の前に立ちふさがり出口を塞いでいる。

 (……ガキかよ。くだらない)

 呆れと苛立ちを感じながら、星川は静かに引き戸をスライドさせ、給湯室へと足を踏み入れた。

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